鳥は見ている

草凪美汐.

お部屋探し

 

 チチ、チチチッ。

 隣の家の大きな木の枝に、黄色い鳥が二羽、止まっている。



「南向きの角部屋なので、日当りも風通しも良好ですよ」

「……そうですね」

「私、あんまり日当りは気にしてないわ」


 グレーのスーツの担当者は、テキパキと間取りの説明する。

 今日は晴れて本当に良かった。

 昨日まで豪雨で、雷注意報が発令されていたのが嘘みたいだ。

 そういえば、コンビニで近所で雷が落ちたらしいって噂してたけど、どの辺だろう、後でリサーチしておこう。

 今日のお客様も、真面目そうな人で良かった。

 

 キッチンに移動。

「自炊はされますか?」

「……あんまり」

 首を横に振る。

「私が作れるからいいの」

「徒歩圏内にコンビニエンスストアが2店あります、スーパーも徒歩で10分以内です」

「あら、いいじゃない」


 浴室へ移動。

「雨の日でも安心の浴室乾燥機付きです」

「……今増えてますよね」

「へぇー」

「トイレは温水洗浄便座です」

「……それは必須でした」

 少し笑顔になった。

「清潔なのはうれしいわ」


 居間に戻る。

「お仕事の時間は不規則ですか?」

「時期にもよります」

「宅配ボックスもあります、不在の時便利ですよ」

「はい」

 いい感触だ。

「私じゃ、受け取れないしね」


 お客様が歩きながら、コンセントの位置などを確認する。クローゼットに手をかけたので、透かさず言った。


「収納もなら十分でしょう」



「もう少し他の物件も見たいので……」ということで、契約には至らなかった。次の内見の予約が入っているそうなので、エントランスまで見送る。

 何だか、後ろ姿が会った時よりも疲れているような気がするな。独身寮が老朽化で解体され、住宅手当を支給されるそうだけど、いいな、いくら貰えるんだろう。

 

 今日はやたら肩が凝ったなぁ、帰りにマッサージ予約しておこうかな。

 お客様が見えなくなったところで、大きく背伸びをした。


 

 チチッ

(いっちゃったね)

 チチチッ

(憑いてっちゃったわね)

 黄色い鳥が二羽、跡を追うように飛んで行った。


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鳥は見ている 草凪美汐. @mykmyk

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