第2話 ゴブリンのお客様①

 突然ですが私の小さい頃の話をしますね。

 この世界では魔族と魔物で隔たりがありました。魔族は知性を持ち魔物は知性を持たない。そう言われていました。でも、私には幼い頃から知性があった。どうして魔族は家を持てて、魔物は持てないのだろう。不思議で仕方がなかった。魔物は知性を持っていないから。魔族のみの特権だったのでしょう。

 知性があると知られれば魔物からも魔族からも迫害される。だから、魔物は皆かくしてたんです。知性があったのに。


「誰かさんのおかげでそういうしがらみがなくなったんですけどね」

「ん、なんだ?」


 この返事した人物、というかスライム……でもなくて魔王グダエラ様。彼が王の座につき、魔族魔物の隔たりをなくすよう国をかえているところなのだ。おかげで私達はみんな知性を持っていたことを表に出したり出来るようになった。


「何でもないです。なんだか慣れませんね。その姿」

「そうか、なら元の姿に」

「なっちゃ駄目です。こんなところに魔王様がいるなんて知られたら。しかも一従業員として働かされていると知られたら私達、処されますよ。ほんと」


 現在グダエラ様には、ここで働きたいというわがま……要望をきくために姿を変えてもらいダエラという従業員になってもらっている。魔王の姿の時のような圧は少し控えめだけど、濃い紫色のウェーブがかかった髪や深緑色の切れ長な目力は健在だ。


 ほんとなんで、いまここに魔王がいるの?

 グダエラ様は有能すぎて、私の仕事めっちゃくちゃ楽ちんなんですけどー。ありがたいんですけどー!

 社長なんて、やることなさすぎになっちゃって長期旅行に行ったんですよ。ちょっと、まじなにやってるの社長。グダエラ様が社長に成り代わっちゃいますよ。

 別にいいですけど。


「なぁ、スライムの姿見せてくれないか?」

「何故ですか」

「可愛いから」


 たまにあるこのお願い以外は至極快適だ。


「仕事中ですから」


 魔王様のお願い、命令であろうとあの姿を見せるのはごめんだ。だって、だって裸なんですよ? 変身し服を着ることに慣れた私は人前であの姿に戻るのがとてもとても恥ずかしい。だからグダエラ様のお願いだからって聞くつもりはない。

 それを感じ取ってくれているからかグダエラ様もそれ以上はしつこく言ってこない。


「そうか」


 そう言ってしょんぼりするだけだ。その姿を拝見するとなんだか、胸がぞわぞわします。最強の魔王様がこんな姿を見せるなんて……。

 ついつい、頬が緩んでしまいます。おっと、いけない、いけない。書類整理の仕事中でした。


 カランと扉が開く音がした。予約外のお客様のようだ。


「いらっしゃいませ。お部屋をお探しですか?」


 ゴブリンのお客様。かなり身長も小さく、したっぱに相応しい弱々しさを醸し出している。

 さっとゴブリン用の家資料を掴み、自分のデスクに置いた。


「こちらへどうぞ」


 商談用の席に誘導し座らせる。お客様用のお茶の用意をしなくちゃ。

 振り返ればすでにお茶を持って立っているグダエラ様。有能すぎじゃないですか?


 お待ちになって、その香り最高級お魔茶まっちゃやないどすか? どうしてそんなものがうちにあるんどすか!?


 っと、びっくりしすぎて言葉遣いがおかしくなってたけど、うーん。やっぱりこんなの飲んだらお客様昇天してしまいません!?

 ほら、見てよ。飲んだお客様、この世のものか? って幸せな顔して魂が空に昇っちゃってますよ!!


「カムバックです、お客様ぁぁぁぁ」


 まだ、何も聞けてませんよぉ!!!!

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