シタッパーズの魔界住宅内見係〜魔王様はスライムで幼なじみ!?〜

花月夜れん

第1話 魔王様襲来

 今日も平和に午前仕事を終え、あとは暇な午後を過ごすだけのはずだった。


「魔王様が内見にくる!?」

「そうなんだ。うちで一番いい部屋はあるのか」

「いやいやいや、魔王様が住むようなのはうちにはないですよ!! ていうか、魔王様ですよね? 自分のお城は?」


 魔界の中でもなかなか発展している魔族街。だけど、私が叫びをあげたのは魔族下級ランクの住む外側地区にある不動産やさん。毎日、スライムやゴブリンなんかの下級ランクの魔物魔族たちへとおウチもとい巣に適した場所を紹介している。私はそんな不動産【シタッパーズ】の営業兼内見案内役兼事務兼(色々以下略)のザコイジャナイカ。略してジャナ。魔王様がくると言ってきたのはここの社長のエライケドザコデス。略してドザコさん。

 仕事にはすごく誇りを持っている。どんなにしたっぱだろうと雑魚だろうと、絶対に物件を紹介する。ドザコさんの信念は私と同じだったから。誰にだって住みやすい家を見つけてあげたい。


「入ってもいいだろうか?」


 とても圧のある声が入口から響く。


「うわ、きた。魔王様」


 場違いにも程がある美の暴力。魔界を統べる王、キングダエラインダゾ様。略してグダエラ様が侵入してくる。うちに魔王様が腰掛けるような立派な椅子なんてないしお出しするようなお茶もないんだよ!! お願いだから帰ってくれ。

 なんて言えないので、とりあえず前の客(スライム)が座ってべっとりしていた場所を一瞬で拭き、私のオヤツタイム用に用意していた高級お茶と高級お菓子をお出しする。泣きたい。


「スライム用の家を見たいのだが」


 私のお茶をひとすすりし、グダエラ様はそう仰言った。


「はい、スライムのお家ですね。いま資料をとってきます」


 なんだ、ペットか何かのお家をさがしているだけだったのかと私は安堵し、うちで取り扱っているスライム用の家を全掴みする。あぁ、さっきのお客さんに一番いい部屋の契約しちゃったよ。今からでも取り消し――ダメよ。そんなことはしてはいけないわ! せっかく気に入ってもらったのだから。

 社長の判断を……。ドザコさんの姿が忽然と消える。

 逃げやがった!!


「こちら、スライム用のものになります」

「ふむ、全部見に行っていいか?」

「え、全部ですか? かなり数ありますよ。距離だって……」

「問題ない」


 言うがはやいかグダエラ様は立ち上がり、私の肩をつかむ。

 ちらりと見えたグダエラ様の座っていた椅子がぐっしょり濡れていた。え、やだ。拭き忘れ? 私、処される!?


「まずは一軒目だ」


 空間移動魔法だろうか。目の前がぐにゃりと歪む。

 目の前に一軒目の資料にのっていた物件が立っていた。


「スライム用に通路には常に水が流れるようにしています。お肌の乾燥や汚れ付着を落とせて一石二鳥」

「ふむ、流れる川の水を利用した家か。なかなかよい。よし次だ」


 二軒目の物件につく。


「こちらはきのこ類がお好きな方におすすめの物件でして、この古代レッドマーツからは新鮮なマーツターケがいつでも食べられるんですよ。他にもこちらの木からは数種のきのこが生えてきます」

「何だそれは。素晴らしいな」


 三軒目。


「こちらスライム仕様なのでトイレはないのですがこちらに最新式体内清浄魔動機がありまして、毎日クリーンな生活が送れます」

「うぉぉぉぉ、最新式だと?」

「はい、ただ少しお値段が……」


 子どものように目をキラキラさせながらグダエラ様はスライム用の家をまわってくれています。まるでご自分が住むかのように沢山話を聞かれ、頷いています。とても大切にされているグダエラ様の飼いスライムなのでしょう。羨ましく思います。


「どこもよいがここが一番気に入った。ここにするぞ」

「えぇ!?」


 グダエラ様がお選びになったのは最下位中の最下位スライムハウス。

 自然に出来た洞窟。ふきっさらし上等。水は洞窟に溜まった鉱物毒入りの水たまり。毒スライム用のお家である。


「あの、本当にここで大丈夫でしょうか」


 恐る恐る聞く。


「あぁ!」


 目がキラッキラしてる。絶対にここにするんだという強い意思を感じる。毒スライムはレアなのでなかなか生まれない。だから売れ残っていた物件ではあるけれど。売れてくれると助かるけれど。ううん、危険はしっかりとお伝えしなきゃ。住みやすい家を紹介するのがモットーだもの!


「この場所は、――え?」


 グダエラ様が消え、一匹のスライムが現れる。ボディカラーが紫と緑のまだら模様。毒スライムだ。


「毒スライムにはここが一番住みよいだろう?」


 スライムからグダエラ様の声がする。


「え、え、ええぇぇぇぇぇぇ?」


 内見を終え、契約を結んだ。

 グダエラ様は、あの家で跳ね回っているようだ。


「暇つぶしにな、大丈夫。変身が得意な部下に影武者させておる」


 魔王グダエラ様は毒スライムから成り上がったらしい。

 そして……。


「約束だっただろ。一緒に住むの」

「そうだったっけ」

「一緒に住もうぜ」

「私はちょっと人型変身がうまいだけの普通のスライムですから毒はちょっと……」


 グダエラ様は私の幼なじみでザコ仲間だった毒スライム。

 名前がない頃にそんな約束をしていた気がする。たぶん。


「あの……、いったい」


 ドザコさんが困っている。それもそうだ。オフィスにグダエラ様が座っているのだ。しかも私の横、空いていた仕事机に。


「オレもここで働くぞ。きちんとオレの話を聞いてくれているようだし、何より面白そうだしな」

「ということは、魔王様が同僚にっ!?」


 休まならない。私、緊張しすぎてさぼ……精神的に休まらないっ!!

 魔王を内見に連れて行ったら、その魔王が仕事仲間になった件。

 どうして?

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