社会人
キクジロー
社会
童心を忘れたのはいつ頃だろうか?
高校生の時? 大学生の時? 社会人の時?
いや、こんなことはいくら考えようと無駄だ。
何故なら、人間は死ぬまで童心を無くしていない。いつからか、周囲の目を気にして、胸の奥に隠して、忘れているのだから。
忘れている。
その時間が長ければ長いほど簡単には思い出すこともできない。
忘れていることと無くしていることは違う。
無くしている人間はほとんどいないだろう。
私は、忘れたはずの子供心を、大人になり、一周回って再び引き出そうと思ったりもする。
もう三十にもなり、立派というか、平均的なおじさんに足を踏み入れようとしている年齢だ。
お金もそれなりに貰えて、妻子に恵まれ、家に帰れば暖かい家族が出迎えてくれる。
文句のつけようがない。
だが、年下の部下を見ていると、彼らは私よりも楽しそうだ。
彼らは私よりも、激務で低給料。おまけに、残業漬けとときたまの休日出勤。
私なら発狂して吐き気を催す。
しかし、彼らは、若干気だるそうにしながらも仕事を辞めること無く、そのうえ、この前友達と旅行に行っただの、初の同窓会があっただの、お手本のような青春を過ごしている。
対して私は。
安定の道に入り、なんの不安もなく、なんの試練もなく穏やかに過ごしているはずなのに。
これっぽっちも楽しくない。
勿論、妻や子供の前でそんな事は吐かないのだが、ココロの中では年中このような事を考えている。
昔から、安定した楽しさを欲していたはずなのに気づけば、安定、つまり、山も谷も無い人生に入り浸っている。
果たしてこれが私の求めていたものなのだろうか?
もっとあの時、あの若い頃に自分を見つめ直していれば。
今更後悔しても遅いか。
私は大人しく、もう戦えない人間として、若者の影に隠れるしかない。
そうだ。
時折、あいつらをいじめてやろう。
そうすれば少しは自分の身勝手な鬱憤も晴れるかもしれぬ。
あいつらばかりいい思いはさせたくない。
私が彼らくらいの頃は、楽しさなど二の次で、根性論最優先の地獄。
今でこそパワハラなどセクハラなどモラハラなどそれらしい言葉が並んでいるが、当時は暴力暴言当たり前で、むしろありがたいお説教と受け取らされていた。
だから、その仕返しを今こそ。
このゆとり共に大人の世界、社会を見せてやろう。
社会人 キクジロー @sainenn
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