欲を閉じ込める箱―800字異世界旅 Ⅲ ―

かこ

◇◇◇

 一人リノ一匹ゲンは貼り出されたポスターに見入っていた。摩訶不思議と銘打った魔道具の展示会が行われているらしい。

 水を沸騰させたり物を浮かしたり生活の助けとなる魔道具は魔石の力を借りて作られる。リノの耳に光るピアスもチョーカーもわからない言語をわかるものに変えて耳に届け、発した言葉が伝わるように訳す。

 高価ではあるが、見るだけでも価値がある。好奇心旺盛なリノはポスターを指さす。


「ここから近いね、行く?」

「紛い物ばかりありそうだぞ」

「当たりがあったらラッキーでしょ」


 能天気なことを、とゲンはリノの肩から飛び降りた。カワウソ姿を活かして往来を縫うようにすり抜けバケツの水に躊躇なく飛び込む。

 精霊でもあるゲンは水を渡る。水さえあれば、国ひとつ分の空間も潜り抜けていく。今回の場合は展示会に無断入場偵察に行ってしまったのだろう。食べ物には金を払うが妙な所でケチる精霊だ。

 リノは留守番が確約して仕方なく一時間待った。

 水の中から戻ってきたゲンはナニかをリノに投げてよこす。


「ほれ、土産だ」


 地面に落ちる寸前に受け取ったリノはつめていた息を吐いた。角度を変えて見ても面白味のなさそうな透明の箱だ。変わったところと言えば側面に日付や時間のダイヤルがついている。


「禁欲箱、というらしいぞ」


 首を傾げるリノに器用に後ろ足で立ったゲンは前足を組ながら顎を上げる。


「使ってはいけないものを箱に入れてしまえば万事解決。決められた時間まで絶対開かず、鮮度はもちろん出来立ての熱も味もそのまんま。食べすぎを防ぐものらしい。金や自分への褒美を入れるのもオススメだと」

「めっちゃくちゃセールスにのせられてるし」


 呆れ顔のリノは何か思い付いた様子で箱を眺める。深刻な相方にゲンは何だと声をかけてやった。


「ゲンさん、頑張れば箱に入れそう。無理でも水をいれたらイケるんじゃ……生き物が入ったら睡眠も食事もいらなくなるのかな」

「末恐ろしい探求欲を入れてしまえ」

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