第8話(終) あたしゃ、メリーさん。今、あんたの後ろに居るよ。

 あたしゃ、メリーさん。こう名乗るのも、なんだか久しぶりな気がするねぇ。

 不思議だよねぇ、あんたとはずっと話してるはずだってのに。

 え? あたししか喋ってないって?

 そう言いなさんな。あんただって楽しかったろう。あたしも楽しかったよ。

 ば ば で れ? 何のことか知らないけど、あんたが嬉しそうだからそれでいいよ。


 しっかしまぁ、世の中ってのは変わるもんだよねぇ。電話が電話じゃないみたいな時代が来るなんて、電話の怪異メリーさんとしちゃ、困っちまうよ。

 とは言え、『あぷり』とやらも結局つながるための道具だ。やりようは……違うのもある? そりゃあそうさ。でもあたしにとっちゃ全部、繋がるためのもんだ、ってことじゃダメかい? こら、こんなおばあちゃんをいじめるもんじゃないよ。


 他のメリーさん? なんだい、浮気かい。まったく、しょうもない子だねぇ。

 あたしから話した、って? そんなことは……そんなことも、あったかねぇ。昔のことは思い出せても、最近のことは……いけないねぇ。妹達あのこたちのことは、あたしが背負うべきだってのに。


 そうさねぇ……まず、私達メリーさんはどこにでも居て、どこにも居ない。そういう怪異かいいだ。

 人のくちのぼれば上る程、力を増す。それがどんなうわさであれ、噂の一つ一つに力が宿やどる。

 そう、噂は、知名度ちめいどは力だ。同時に、まじないだ。のろい、と言った方が通りが良いかねぇ。ま、同じことだがね。

 私達メリーさんは噂が多くなれば多くなる程、力を増す。代わりに、あらゆる噂に縛られるようになる。

 その縛りが、私達メリーさん私達メリーさん以外のものにしちまう可能性もある。

 他の怪異だって大抵はそうさ。猫女ねこむすめなんかが最たるもんだ。あの子はいつの間にか、本当に、可愛くなっちまった。かつては恐れられたもんだがねぇ。いやはや、時代のろいってやつは。


 まぁ、どうにかこうにか、メリーさんあたしメリーさんあたしとして、今のところは存在そんざい出来てる。最近じゃ娯楽こうてきしゅの勢いに勝てなくて、こんなにボケちまってるがねぇ。

 もしかしたら、あんたが居なけりゃ、もう消えちまってたかもしれない。ありがとうよ、メリーさんあたしなんかに付き合ってくれて。


 おや、眠いのかい。いいよ、ゆっくりお休み。

 あんたはあんたの人生をしっかりと歩んだ。休む権利くらいある。

 そう、『あんたの人生』だ。人だって怪異だって同じさね。人の認知どうみられるかに縛られる。それが良い方向へ働くこともあれば、悪い方向へ働くこともある。

 他の人から見りゃあ『良い方向』でも、自分にとっちゃあ『悪い方向ちがう』なんてことだってある。

 ああ、いいんだよ。所詮は与太話よたばなし。聞きたいだけ聞いて、話したいだけ話して、それで終わり。それが友達ほんしつさ。


 あたしゃ、メリーさん。今、あんたの後ろに居るよ。

 だから、安心して、お逝きおやすみ

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あたしゃ、メリーさん 源なゆた @minamotonayuta

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