第7話 あたしはメリ三。よろしく……あ? なんだって?

 あたしはメリ

 本当はメリーさん、だけど、この間ったメリ一さんアネキがこう呼んだから、そのまま名乗ることにした。

 で、それはそれとして。


「何言ってるのかわかんねぇよ」

「ふいずっと?」

「あー、名前? 名前だな? 電話をかいする怪異かいい舐めんなよ」

「あたしはメリ三だ!」

「そう、メリ三だよ、メリ三」

「え、あ、切りやがった」


 こんな具合で、どうにも上手く憑けけねぇ。

 いや、一応憑いたことにはなるのかな。ただ、どうにも『えにし』を手繰たぐれねぇ……何がいけねぇんだろうな。やっぱお互い言葉が通じてねぇっぽいのが原因か?

 怪異かいい体質とでも言やぁいいのか、気分だけは伝わるんだが、所詮は気分だけ。『縁』の強まりは、感じられねぇ。



「あたしはメリ三。よろしくな」

「あ? そうだよ、メリ三だって。メリ三、メリ三」

「なんか喜んでるっぽいのはわかるんだが、言ってることはわからねぇよ」

「っていうかお前なんかすごいな、大丈夫か? ヒロポンでもやったか?」

「あー、かく、あたしはメリ三。行けそうなら、行くからな」


 でも、行けねぇ。

 本来、あたし達メリーさんは同じ相手に電話を重ねて『縁』を強め、相手の意識へ深く入り込むことで力を得る……そういう怪異のはずだ。――メリ一さんアネキの説明をよぉく聞いたら、そういうことだった。

 だけど、同じ相手に、二度と繋がらねぇ。遭えねぇ。強く、なれねぇ。いや、それどころか、このままじゃいつか消えちまいそうだ。

 怪異は人に語られることで存在出来る。

 だからあたしは、少しばかり、怖い。……怪異なのにな。





 消えて、ねぇ。

 あたしはまだ、消えてねぇ。

 いや、それどころか、段々力も増してきたような気がする。

 誰とも深くは繋がれてねぇのに、ちっとずつ、ちっとずつ、何かがあたしに繋がってくる。

 電話した相手だけじゃねぇ。全然知らねぇ誰かとの繋がりを、感じる。

 もはや数え切れねぇ。

 この世、って言葉が何を指すのか、怪異あたしたちにとっては曖昧あいまいだが、少なくともあたしの感じる『この世』が、段々広くなっていくのすらわかる。


 あたしはメリ三。その、はずだ。どうるのか、わからねぇけど。

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