第6話 あたしはメリ三。よろしくな。

 あたしはメリ

 本当はメリーさん、だけど、むかしったメリ一さんアネキに名付けられて以来、こう名乗ってる。

 え、メリ一さんアネキとの出遭いについて? 聞きたいってんじゃしゃあねぇ、話してやるよ。

 あれば、あたしが自我を得たばかりの、最高に、最悪に、不安定だった頃のことさ――


「あたし、メリーさん。今、あなたの後ろに居るの」

 耳元で聞こえて、ゾワッ、としたぜ。お前らと違って鳥肌とりはだなんて立つわけもないのにな。霊核れいかく――お前らで言う心臓しんぞう――がふるえた、とでも言えばいいのか?

 ま、それはどうでもいいんだ。かくあたしは、怪異メリーさんなのに、

 万事ばんじきゅうすだ。本来なら、電話することで徐々に『えにし』を強めていくのが常套じょうとう手段しゅだんのはずだが、すでに後ろだってんだから、終わりだよ。あたしはより強い怪異メリーさんわれ、消える。怪異かいいってのはそういうもんだ。あるとも知れぬ本能がそう告げていた。だけど――


「チョココロネ、食べる?」


その怪異メリーさんはそう言って、むせ返るような甘い匂いと共に、あたしの口を香ばしさで満たした。



「じゃあ、生まれたばかりなのね」

 あたしの身の上話を、その怪異メリーさんはそうくくった。ま、そもそもがとんでもなく短い話だ。何せ気付いたら喰われかけてたんだからな。……いや、それはあたしの勘違いだったわけだが。

「また同族メリーさんえて嬉しいわ」

「ああ、こちらこそ……『また』?」

「ええ、あなたで二人目。いいえ、三人目かしら」

 自分自身のことを数えたらしい、ってのは流れでわかった。

「だから、あなたはメリ、でどう?」

「あんたと、その、は?」

「あたしはメリ。メリちゃんは、メリちゃんよ」

「つまりあたしはメリってことか……そこで数えるのかよ」

「メリ二ちゃんも同じことを言ってたわ! あたし達、仲良くなれそうね」

「そんな満面の笑みで言われてもなぁ……あたしとしては願ったり叶ったりというか、そうして貰えるならありがたい限りだが」

 当然だ。かなら後者を選ぶ。

――選びたい。

――選んで、もらいたい。

「うふふ、勿論もちろん! じゃあ、メリ三ちゃん、今からあなたもお友達よ!」

「ああ、はい、メリさん。よろしくな」


 こうして九死に一生を得たというか、怪異としてやっていく足掛かりを得たというか……結果的に、メリ一さんアネキの妹分としてしばらく過ごすことになった。

 メリ一さんアネキの話によれば、メリ二ちゃんしたのアネキとは違う形で出遭ったらしく、あたしを連れ歩くのが随分と楽しそうだった。

 今思えば、寂しかった、のかもしれねぇなぁ。わからねぇけど。当時のあたしにはそんなことを考える余裕は無かった。

 とは言え、を……というか、そのを教わって、『嗚呼ああ、案外ゆるいのかな』と思ったりはした。まぁ、あのメリ一さんアネキのことだから、どこまで正確に教えてくれたのか知れたもんじゃなかったが。

 兎にも角にも、メリ一さんアネキ薫陶くんとうよろしく、あたしは怪異メリーさんとして最低限のことを理解して……ひとり立ちする日が来た。


「またね、メリ三ちゃん」

「ああ、メリ一さんアネキも、達者でな」

 別れはあっさりとしたもんだった。

 ただ、『どこにでも居て、どこにも居ない、私達メリーさんはそういう怪異よ』と、メリ一さんアネキが普段とは少し違う口調で言っていたのが印象的だった。


――と、こんなところだ。昔話なんてガラじゃねぇが、たまにゃいいだろう。

 そんじゃ、改めて本題。つっても大したことじゃねぇんだが。


 あたしはメリ三。よろしくな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る