第5話 あたし、メリ二ちゃん。今、やさぐれてるの。

 あたし、メリちゃん。

 本当は、メリーさん、よ。でも、メリ二ちゃん、ってことで覚えておいてもらいたいわ。

 それで少しは、力が増すでしょうから。


 長い時間が、過ぎた。

 本当に、長い、長い、時間が。

 最初から一緒だったお魚さんも、とっくに居なくなった。

 売られていった、ってことよね。ここでずっと過ごしてるんだもの、流石さすがにわかるわ。

 あたしたちは、売り物になっている。ずーっと、そう。――最初は違ったのかもしれないけど、ここへ来てからは、そう。

 何年、とか、あたしにはわからない。ただ、お魚さん達がえさをもらった回数が、数え切れなくなった。それだけ。

 ううん、数えることに疲れちゃった、って言った方がいいかな。別に、どっちでもいいけどね。いずれにせよ、あたしには、何も出来ない。


 なんにも無いようで、やっぱりなんにも無い。そんな日々が続いて。

 ある日、不思議ふしぎなことが起きた。あたし自身が怪異ふしぎなのにね。嗚呼ああおかしい。笑えないけど。

 でも、本当に、不思議なことで。――半ズボンの男の子が、あたしのことを指差したの。

 これまで誰も、あたしに視線を送ることすら無かったのに。いえ、つかまったあの瞬間しゅんかんはもしかしたらそうだったかもしれないけど、わからないし、知らない。

 だから、実質、初めてのことで……勿論もちろん勘違かんちがいじゃないか確かめたわ。あたしの前にも後ろにも、お魚さんは居なかった。男の子は明らかに、あたしのことを指差していた。


 それからは、てんてこいというか、トントン拍子びょうしというか……まぁ、良いように考えるなら後者こうしゃね。

 あたしは長らくとらわれていた硝子ガラス牢獄ろうごくから、透明とうめいふくろへと移され、男の子の虜囚りょしゅうになった。

 それもつか、男の子の家へ連れ去られて、今度は小さな硝子の牢獄へさせられた。

 は、環境としてはどうなのかしらね。――どこにでも居て、どこにも居ない。私達メリーさんはそういう怪異なのに、なんて、笑っちゃうわらえないけど――見晴らしが良いのは、確かね。周りに物はたくさんあるけど、整理整頓せいりせいとんされていて、事実としての広さよりも広く感じる。机に付属した本棚には、分厚い本が何冊も……内容はあたしにはわからないけど、きっとあの子はお勉強熱心なんだわ。

 でも、そんなことより、机の横に窓があって、新居あたしの位置からでも町を一望出来たのが良かった。

 あれが海、かしらね。とも比べ物にならないくらい、大きくて、広い、水が見えた。メリ一さんおねえちゃんが教えてくれた、海。まさかこんな形で見ることになるとは思わなかったけど、それでも懐かしくて、嬉しい。目の奥が、じんわりと熱くなるくらい。怪異なのにね。


 あたし、メリ二ちゃん。今、自由からは程遠いのに、喜んじゃってる自分が、怖いわ。

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