第6話ツリーハウスの内見3

「もうひとつ重要なお部屋があるわ」


 グリンダは私を三階の寝室へ案内してくれた。

 このモデルハウスは夫婦と子供二人を想定してるそうで、夫婦用の大きな部屋と、やや小振りな子供部屋ふたつがあった。


「独身なら子供部屋は客間にするといいわ」

 グリンダが、なぜか私の顔を見て言った。


 確かにひとりものだけど、実際にこの家に住めるわけでもないのに。

 でも、もしも住めるならと考えてしまうのは確かだった。いつか将来こんな家が持てるようになりたい。そう目標ができただけでも、内見して良かったなと思った。


「どうしたの?」

 急に考えこんでしまった私を心配してくれたのだろう。先に立って歩いていたグリンダが戻ってきてくれた。


「あ、ごめんなさい。何でもないです。いつかこんなツリーハウスに住みたいなって思ってました」


「うふふ、きっと手に入るわ。おそらくそんなに遠くない将来に」

「そうかな。そうだといいけれど。頑張って稼がないと」


「ここが主寝室」

 グリンダは両開きの大きなドアを開けた。


 部屋は上品なベージュと茶色で統一されて、落ち着いた雰囲気だった。

 窓には深緑の厚手のカーテンがかかっていて、グリンダがそれを開けると、内側に日よけの薄いレースのカーテンがあった。


 部屋の真ん中にセミダブルのベッドがふたつ並んでいた。サイドテーブルにはステンドグラスのランプが置かれていて、木と鳥の絵柄が描かれていた。


「ミミさんにはちょっとシックすぎる部屋かしらね。でも、ファブリックを明るいものに替えれば良いかもしれないわね」

「安らげそうなお部屋ですね。リラックスできそう」


「ここがクローゼット。中に棚もあるから便利だと思うわ」


 壁のドアを開けると、中は思っていたよりも広かった。おそらくアトリエと同じように空間が広げられているのだろう。


「たくさん収納できそうですね」

 クローゼットをのぞきこんでいると、服を掛けるための木製ハンガーがたくさん用意されていた。


「ここを一杯にするくらいお洋服が持てたらいいでしょうね。貴族みたいな暮らしですね」

 私がため息をつくと、グリンダは笑った。


「ふたり分にしても大きかったかしらね。でもお洋服以外のもの、何でも入れちゃえばいいわ」

「あはは、そうか、そうですね」


 その後、子供部屋も見せてもらった。

 それぞれピンクとブルーの色違いで統一された部屋で、勉強机とシングルベッド、そして、小さめのクローゼットがついていた。


やはりここの壁にも小さいながら棚が作られていて、小物を飾ったり、本を並べたりして、好きなようにアレンジもできそうだなと思った。


 窓は丸みを帯びた可愛らしい出窓になっていて、両開きの窓を大きく開けると、爽やかな風が入ってきた。


高い木の上から眺めると、遠くまで緑色の景色が広がった。木立の間の湖がキラキラ輝いているのが見えて、思わず声をあげてしまった。


「きれいな湖ですね」


「ピクニックに最適よ。季節には一面に野花が咲いてきれいなの」

 私の視線の先を見たグリンダが説明してくれた。


「楽しそうです」

「うふふ、釣りもできるわよ」

「いいですね。お魚、食べたいな」


 ひと通りツリーハウスの中を見せてもらった私は、お店の方のツリーハウスへもどって、グリンダにお茶をご馳走になった。


 心地いいソファにすわって、唐草模様のカップで、香りのいいお茶をいただく。

 ほんのり甘いハーブ入りのクッキーは、口に入れるとほろっとくずれて、もう一枚、もう一枚と手が伸びてしまった。


 グリンダからは、ツリーハウスを育てる苦労や、面白いハプニングの話なと聞きながら、時間を忘れるほど楽しい時間だった。


 かならずいつか、ツリーハウスを手に入れよう。そう心に誓った。


 ずいぶん長居してしまった。そろそろ帰らなくては。私はグリンダにお礼を言って立ち上がった。


 その時、私の手の中に突然飛び込んできたものがあった。


「ええ! どこから?」


 思わず手の上に現れたそれを、落とさないようにあわててつかんだ。

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