第5話ツリーハウスの内見2


 キッチンの壁は淡いオレンジ色のタイル張りだった。目の高さほどの所に、オレンジやリンゴ、ブドウなと様々な果物の描かれたタイルが帯状に入っていて可愛らしかった。


 一番奥には流し台があって、魔石を使った水流とコンロが二つついた調理台が置かれていた。


「キャンドルの火くらいなら問題ないけれど、木の中だから直接火を使わないように加熱の魔石コンロを使ってるわ。これなら炎が出ないでお料理できるから」


「そうですね、こげてしまったら大変です」

「うふふ、多少の火で焦げるほと弱くはないんだけど、念のためね」


「そうなんですか」

「ええ、耐火、防水もバッチリよ」


 グリンダはウインクして、横のドアを開けた。


「こっっちはバスルーム。お風呂とトイレね」


 バスルームはこじんまりしていたが、木のたらいを大きくしたようなシンプルな風呂桶はリラックスできそうな気がした。


「こちらも水流の魔石と加熱の魔石を使ってるの。魔石ひとつで数年使えるけど、魔石屋さんでいつでも手に入るから、交換も大丈夫なはず」

「そうなんですね。それなら手間がかからなくて、毎日お風呂を楽しめますね」


「ミミさんは、ミャウ族でもお風呂好きなのね」

「ええ、確かにミャウ族は水が苦手な人多いです。私は子どもの頃から母に 川へ放りこまれて、ゴシゴシ洗われていたから。水に入るのは平気なんです」


「まあ、うふふ。温かいお風呂ならもっと気持ちがいいと思うわ」

「そうですよね。いいなあ」


「トイレも見てね。お家ではトイレの快適さも大事よね」

「そうですね。それは大きい。特にミャウ族はこだわりが大きいかもしれません」

「それじゃ、こっちへ」


 グリンダがバスルームの横にあった衝立ついたてをずらすと、壁際に白い陶器でできた便座があった。

 壁には小物が置けるような棚があって、棚には石鹸のような香りのする小瓶が置かれていた。隣の小さなドアの中にはお掃除用具が入っていた。


「ここも水流の魔石で清潔に保てるの。この便座は消臭効果もついているから快適よ」

「すごい! きれい好きなミャウ族でも、こんな清潔なトイレを使っているお家はないと思います」

 私が興奮気味に答えると、グリンダは嬉しそうだった。


「このトイレはね、キノコたちが協力してくれているのよ」

「え? さっき庭で見た?」


「いえ、あの子とば別。小さくて群生して増えるキノコなんだけど。彼らが増えるための菌を使わせてもらってるわ。彼らは汚れた土を分解して、養分の濃い土を再生してくれているのだけど、それの応用ね」

「そんなことができるんですね」


「そうなの。森にはいろんな種類のキノコがいて、お願いすると助けてくれることがあるの」


 私はもう、驚くばかりだった。


 家を建てるって、もっと強引に自然を切り取って作るものだとばかり思っていた。それが当然だと思っていたけれど、彼女のツリーハウスはまったく違う。


 彼女が「育てる」と言う意味が、ちょっとだけわかるような気がした。

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