第4話ツリーハウスの内見1

 小さな箱には三日月型の茶色い種のようなものが入っていた。

 グリンダはそれを大切そうにつまむと、そっと土の上に置いた。


「完熟した種珠しゅじゅよ」


 グリンダは説明して、どこからか出してきたジョウロで水をかけた。


 私は何がはじまるのだろうと思って見ていると、土に置かれた種珠は、ひとりでにモゾモゾと土の中へもぐって行った。


「もぐっちゃった?」

「そうよ、すぐに出てくるから見てて」


 グリンダは種珠が消えたあたりの上から、さらに水をかけた。

 すると、パンという弾けるような音がして、土のなかから大きな双葉があられた。

 葉は直径三十センチ以上はあるだろうか、茎も私の指の太さほどもあるような大きな双葉だった。


 それは見ている間に成長して、幹が太く長く伸び、枝分かれして、見上げるほどの大木が現れた。


「うわあ」


 言葉が出なかった。

 私があんぐり空けた口を閉じるのも忘れて見ていると、木の幹に大きな窓があらわれ、入口のドアにはハート形のウェルカムボードが揺れていた。


「どう? これが私が育てているツリーハウスよ。うふふ。種珠で移動できるのは、私だけの技術なの。私としても画期的だったわ」


「ほんとに、驚いて、なんと言えば、いいのか、わからない」

 私は、言葉が切れ切れにしか出ないのを自覚しながらも、うまく言葉を続けることができなかった。


「さあ、それじゃ中を見ていただきましょうか」


 グリンダが言うと、ドアがひとりでに開いた。

 エントランスはお店よりは狭かったが、家族三、四人で住むには十分な広さに思えた。


 ゆるやかな角がある八角形の部屋で、壁は素朴な木目。シンプルだけれど、暖かみを感じる部屋だった。


 窓には白いレースのカーテンが揺れていて、手前の台にはピンクの花が咲いた植木鉢がひとつ。その隣に猫の形の陶器の置物が飾られていた。


 八面あるうちのいくつかの壁は棚になっていて、収納棚にも飾り棚にもなりそうだった。


 部屋の真ん中には、白いペンキを塗ったような手作り感のあるテーブルと椅子があって。テーブルの上には小花模様の可愛いティーセットが置かれていた。


「ああ、なんて、なんて」


 私はあまりに理想的な部屋のようすに、酔ったようにぼーっと見つめるしかなかった。


「うふふ」

 グリンダが嬉しそうに笑った。


「すごくステキ。こんなお部屋、憧れます」

「よかった。そう言ってもらえると、この子も喜んでるわ。二階へ行ってみましょう」


 グリンダは先に立って奥にあった階段を上がっていった。階段は少し急だったが、手すりもあり、ステップの幅がちょうど良く作られていて上りやすかった。


「ここは、くつろぎの場所、リビングね。奥にキッチンとお風呂、トイレなどの水回りがあるわ」


 居間はエントランスと同じくらいの広さで、ここの壁は淡い緑と白のストライプの壁紙だった。ここも大きな窓があって、外からの光がじゅうぶんに入ってくる。


 窓には日よけなのか、天井からグリーンネックレス。小さな緑のボールが繋がったような多肉植物がすだれのように下がっていた。


 そして明るい窓際には、ふかふかのソファーセットがあった。壁の本棚には数冊の本が並んでいて。空いているスペースには、風景が描かれた小さな水彩画と、ここにも猫の置物が飾ってあった。


「いいなあ」

 ついこぼれてしまった私のつぶやきを、グリンダほほえんで受け止めてくれた。


「うふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ。次はキッチンね」

 グリンダは先に立って、リビングの奥へ続くドアを開けた。

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