第3話間取りを育てるツリーハウス

 グリンダが連れてきたのは、お店の裏庭だった。

 広い庭には数本の大きな木が立っていて、どの木の幹にも、さまざまな形のドアと窓があるので、ツリーハウスなのだろう。


「あれがツリーハウス?」

 私が指さすと、グリンダは嬉しそうにうなずいた。


「あの子たちは、今部屋の間取りを育てているところなのよ」

「間取りを育てるって?」

やはりグリンダの言い方は作る、ではなく育てるだった。


 グリンダの説明によると、アトリエで見た温室の中で、何の木になるか決めたツリーハウスは、裏庭で一年間、特別な肥料をもらって成長するそうだ。


「肥料によって、樫の木になったり、橅の木になったりと種類が決まって、幹の中に部屋が作れるくらいまで大きくなるのよ」


「肥料で木の種類が決まるなんて、はじめて聞きました」

「そうよね。普通の木は生まれた時から決まっているもの。それに幹の中にお部屋が作れるほど大きくなるには、普通は百年、二百年って長くかかるはずよね。ツリーハウスは特別な子たちだわ」


 種類が決まった木は、さらに三年間、幹の中に必要な間取りを育てて、必要な部屋を作って行くそうだ。

 あまりに変わった育て方をするので、私は少し混乱していた。


「ミミさんだいじょうぶ? 疲れたかしら」

「いえいえ、興味深くて。それに驚いてばかりで」


「うふふ、みんな驚くわね。普通お家は木を伐ったり、穴を空けたりして作るものだけど、私の作り方は木を傷つけないの。ツリーハウス自身がが好きなように育っていくのよ。その時、ちょっとだけ、こちらのお願いを聞いてもらうの」


 間取りを育てている間は、部屋の中をのぞくことができないとのこと。

 お客様の要望をどう伝えるのか聞いてみたら、グリンダはうふふと笑って教えてくれなかった。企業秘密ということらしい。


 間取りを育てているというツリーハウスの中に、変わった形の家があった。

 あれは、どう見てもキノコ。赤くて丸い傘に白いフカフカの(胴体)が伸びている。


「あれはキノコ? あれもツリーハウスですか」

 私が指さした。


「そうよ。キノコハウスになっちゃったけど、可愛いでしょう」

「可愛い。でもキノコにもなるんですね」


「あの子はちょっと変わり者だったわね。いいのよ個性的で。それに意外に欲しがるお客様もいるの」


「そうでしょうね。ツリーハウスもいいけど、キノコハウスも憧れる」

「うふふ、ミミさんもああいう子好きなんだ。嬉しいな」


 私が眺めていると、キノコハウスの周りを小さな光が飛んでいるように見えた。お日様の光にしては、チカチカ点滅していた。


「ああ、あの光は妖精さん。あの子がお気に入りみたいで、よく遊んでるわ」

「妖精もいるんですか!」


 私は興奮して叫んでしまった。

 妖精なんておとぎ話に聞くだけで、実際にいるとは思わなかった。


「ええ、まれにだけど、妖精が気に入ったツリーハウスに住み着くこともあるのよ。恥ずかしがりだから、あまり出てこないけど、私のお店にも家政妖精がいるの。いつのまにか、お掃除してくれてたりして、助かってる」


「いいなあ、ツリーハウス。欲しくなってきた」

 私が言うと、グリンダはうんうんと何度もうなずいて満足そうな顔をした。


「やっぱり。あなたなら、気に入ると思ったわ。うふふ。それじゃ、今度こそモデルハウスを見てもらうわね」


 グリンダは言って、斜めがけしていたポーチの中から小さな箱を取り出した。

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