第2話ツリーハウスの育て方

「ここは私のアトリエです。ツリーハウスを育てている部屋なの」

 グリンダが説明した。


「すいぶん広いですね。エントランスより広いような気がします」

 私が首をかしげた。


 グリンダのアトリエは、エントランスの数十倍もあるような広さだった。

 部屋の壁は天井までぐるりと棚になっていて、、細長いテーブルが何台も並んでいた。


「うふふ、これはちょっと秘密の技なんです。お部屋の一部が別の空間と繋がっていて、広く使えるんですよ」


「そうなんですね。すごいな」

「ありがとう。祖母から受け継いだ技なんですけどね、祖母はもっと広いお部屋を作れるのだけど、私はまだ、これくらいが限界」


「それじゃ、こちらへどうぞ。まず、これが発芽したばかりの子です」


 グリンダが示したのは、小さな植木鉢。

 土の上にビー玉のような透明なたまが埋まっていて、真ん中に緑色をした瞳としか思えないものがキョロキョロと動いていた。


「目?」

 私が驚いてグリンダを見ると。植木鉢を持ち上げて見せてくれた。


「芽です」

「キョロキョロ動いてる!」


「うふふ、可愛いでしょ、ツリーハウスの赤ちゃんよ」

「はあ」


 私がとまどっていると、グリンダは隣の棚から別の植木鉢を出して来た。


「これならわかりやすいかしら。発芽してから十日くらいの子」

「双葉ですね」


「ええ。双葉ちゃん。ちょっと植物らしくなってきたわね」


 植木鉢の上には、細い茎の先に二枚の丸い葉がついた芽が出ていた。

 私がのぞきこむと茎が左右にリズミカルに揺れて、踊っているようにも見えた。


「あら、ミミさん気に入られたみたいよ。喜んでる」

「そうなんですか?」


「ええ、双葉ちゃんは人見知りだから、はじめての人に会うと、葉っぱを閉じちゃうことが多いの。珍しいわ」


 ゆらゆら揺れている双葉をみていると、木の芽なのに意志をを持っているみたいで、なんだか可愛らしく思えてきた。


「次はこっちね。一年くらい育った子」

 グリンダは私の手をとって部屋の奥へ導いた。


 そこはガラスの温室のような明るい区画だった。

 ガラス越しに見ると、床一面に土が敷いてあって、直径十五センチくらいの太さの木が、十本ほど植えられていた。


「ここでは成長した木が、何の木になりたいか考える場所なの。かしぶなならなどの木になる子が多いわね。たまには白樺しらかばかえでまつになりたい子もいるけど、ツリーハウスとしては、小さい家になってしまうわ」


「え? 最初から樫や楢などの種をまくのではないの?」

 私は驚いて、温室の中にいる木を見た。


 そういえば細い三本の枝を伸ばしているだけで、みんな同じで特徴がなかった。

さきほどにの双葉のように動くこともなく、ただボーッとしているようにも見えた。


「蒔くのはツリーハウスの種よ。赤ちゃん見たでしょう」

「あのビー玉みたいなの?」

「そう、種珠しゅじゅっていうの。あれがツリーハウスの種」


「そうなんですね」

 あまりに知っていた常識と違うので、私はため息をついた。


「うふふ。みんな驚くのよ。ツリーハウスは普通の木と違うことはわかってもらえたわよね。それじゃ、今度は最初の目的、内見にしましょう。モデルハウスを案内するわ」


グリンダは楽しそうに私を店の外へ連れ出した。

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