第12話 正体

震える足で何とか王都に辿り着いた勇希だったが

既に火事はアルバンスを含む憲兵達の協力で治っていた。


「無事だったか…!」


「あ、ああ。火事の原因は?」


「わからない。あちこちで突然発火したらしい。誰も怪人の姿も見ていなければ火をつけた怪しい人物も見ていないそうだ。」


(一体なにが…。)


「勇希殿…。僕に聞きたいことがあるのだろう?一緒にメシエッタ様の所へ行こう。」


「何でメシエッタ様…?」


その疑問は王宮につくとすぐわかった。

アルバンスはメシエッタの『千里眼』を利用して自分が嘘をつけばすぐにわかる態勢を作ったのだった。


「アルバンスはジークとは関係ないのか…。」


「ええ…。それに怪人との関わりも有りません。」


「勇希殿。僕がジーク・フリードと関係を持っていると疑ったのはこの名前かな?」


「そうだけど…。」


「僕は物心着く前に両親を怪人に殺されているんだよ…。顔も名前も知らない。それに自分の本名すら知らない。けれど僕がきっと受けたであろう愛に恩返しがしたい。」


「親を…。けれどそれとその名前何が関係あるんだ?」


「僕は怪人軍のボスをジーク・フリードだと思っている。」


(ああ…。有りえない話じゃない。)


「頭を潰せば怪人達の力は大きく弱まる。ジークと会うためにも僕がジーク・フリードの名とおそらく彼の友人だった人の名前を騙れば少しはジークも興味を持つだろうと考えこの名を使っている。」


(ドラジがアルバンスの事を知らなかったのも本名じゃないなら納得できる…。それにメシエッタのスキルの前じゃ嘘はつけない。)


「よかったあ!」


この世界にきて初めて出会った彼が敵でないとわかり勇希は喜びと共に大きな疲れに襲われた。


「疑いが晴れて良かったよ。立場は違えど僕は君を友人だと思っているからね。」


「アルバンス…。」


「おい。」


「ん?ぬうぉお!?」


友人という言葉に少し照れ臭さを感じながらなんかこういうのもいいなと勇希が思っていると突然背後からドラジに声をかけられた。


「何でお前はいつも急に!!」


「アルバンスというやつが気になって見に来てみたんじゃよ。」


「あれ?メイとアリスは?」


「ホホホ。あの2人ならベルゼヒルトとお茶をしておるよ。」


「ベルゼヒルト…?」


「ああ。アルバンスお前は知らないんだな。帝国の皇帝ってやつが実は−−−」


「ベルゼヒルトですって…?帝国の者が我が国の元王女の名を騙るなんて…!」


(おいおい。このお姫様人の話最後まで聞かないタイプだな。)


「騙るって言うか本人なん−−−」


「それに…。あなたは大精霊ドラジ様…!情報が多すぎて頭がパンクしそうですわ…。」


(おい。2回目だぞ。)


「そ、そうだ!ドラジお前、アルバンスの本名を知らないのか?」


「わからんよ。わしはこの国で生まれた人間のことしかわからん。わしの記憶では王宮内に立ち入ることのできる権利を与えられる者はこの国出身の者だけだったと思ったが?」


ドラジは考える人みたいなポーズで考えているが腕が短くて顎まで届いていない。


「アルバンスは私の特別なのです。彼には何度も国も私も救われて来ました。これ以上彼を疑うのであれば英雄様や大精霊様であろうと容赦はしません。」


「メシエッタ様…。」


「ドラジ…。俺は俺なんかのことを友人って呼んでくれるアルバンスを信じたい。」


「ふむ…。まあお前さんが言うのであれば良いだろう。」


「ところでドラジの用はそれだけか?」


「ああ。忘れておった。お前さんに用があるのじゃ!もう一度帝国まで戻って来てもらえるかのぉ。」


「何の用だ?」


「お前さんまた幹部とやらと戦ったのじゃろ?」


「ああ。あの金ピカ野郎とんでもない強さだった…。」


「ほんで負けたのじゃろ?」


「ああ。俺の力じゃまだまだ及ばないんだ…。」


「ではわしが稽古をつけてやろう。」


「ああ。わしが稽古を…え?」


「だ、大精霊様が稽古を…?」

「こりゃすごいことになるぞ!」


ドラジの稽古をつけると言う発言でメシエッタやアルバンスを含む周りの人々は開いた口が塞がらないほど驚いている。


(え?え?こいつそんなすごい精霊なの…?)


勇希はドラジに稽古をつけてもらうために再び帝国サンスールへと足を運んだ。

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ヒーローになりたかっただけ。 此花 @kirin1224

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