第9話 帝国
「ここはどこだ…?」
勇希が目を覚ますと見知らぬ部屋にいた。
「あー!起きた!」
勇希が目覚めたことを喜んだメイは勢いよく勇希に抱きついた。
「め、メイ!痛えから…あれ?痛くない…。」
抱きつかれた事で怪人にやられた傷が痛むと思ったが勇希はそれほど痛みを感じなかった。
「お姉ちゃんが治してくれたんだよ!」
「お、お姉ちゃん…?」
「うん!お姉ちゃんはちゆしっていうスキルが使えるから!今は頑張りすぎちゃったから隣の部屋で寝てる!」
「そうだったのか…。」
『治癒師』
“自身の体力と引き換えに傷を癒す事ができる”
メイの姉であるアリスは「治癒師」というスキルの所持者であった。そのスキルを使い勇希の肩の傷を治したのだった。
「ところでここは…?」
「それに付きましては私の方から説明致しましょう。」
メイと会話をしていると突然見知らぬ人物が口を挟んだ。
「だ、だれだ…?」
「失礼致しました。私はサンスール帝国の皇帝に仕えます執事のエル・ブランコと申します。以後お見知り置きを。」
「帝国…!なんで帝国が俺たちを?」
「私達は英雄である貴方に接近を試みていました。勿論ある理由がありましてね。その理由のために。怪人に負けて瀕死の状態の貴方を死なせる訳にはいかなかったのでこちらで保護したのですよ。近くにいた少女2人も含めてね。」
「ある理由って…?」
「それに付きましては皇帝ベルゼヒルト様から直々にお話をお聞き下さい。」
(ベルゼヒルト…?どこかで聞いた事があるぞ…。)
そんなことを考えながら勇希はエルの案内で部屋を出て皇帝の待つ部屋へと移動をした。
「お客様をお連れ致しました。」
エルに連れられて入った部屋には仮面をつけたブロンド色の長髪で華奢と言うまでではないが女性の様な背格好の人物が待っていた。
「お前が41人目の英雄か…。」
「そうですけど…。」
「思ったより小さいな。既に聞いたかも知れないが私が皇帝ベルゼヒルトだ。」
「はあ…どうも…。」
(小さいって…ん?あ!ベルゼヒルトって王様の話に出てきたミカエルの娘と同じ名前じゃないか!)
「あの…。何故、帝国の皇帝がバラガント王国先代国王の娘の名前を…?」
「…。お前が言っているベルゼヒルト・ガンダハールと私は同一人物だからな。」
「は?」
仮にもベルゼヒルトが言っている事が事実ならば目の前にいるベルゼヒルトは200年以上生きていることになる。
「いやいや!この世界の人間ってそんな生きられるの…?」
「あり得ないですよ。」
「お姉ちゃん!」
ふらつきながらこの部屋を訪れ、口を挟んだのはアリスだった。
「あり得ない。確かに人間ならばそうだろうな。」
「まさか怪人!」
「いいや。私は魔族だよ。」
(え?今魔族って言った?)
「私は魔王の父と人間の母から生まれたハーフってやつだな。」
(え、待って。こいつめっちゃサラッととんでもないことばかり話してない?)
「ベルゼヒルトと言えば3代目国王ミカエルと第二妃との間に生まれた子のはず。魔王の子なんて聞いた事が無いですよ!」
「当たり前だろう。そんなことを世に出す訳にはいかない。まあ貴方もそこに座れ。協力を仰ぐ前に話をしてやろう。」
ベルゼヒルトの口から語られたのは想像を絶する話だった。
三代目国王ミカエルの正王妃として王宮に向かい入れられたアルセイラだったが後継を産まなければいけないと言うプレッシャーの問題か中々ミカエルとの間に子を儲けることができなかった。
そんなアルセイラに愛想を尽かしたミカエルはアルセイラを第二妃に降格させ新たに正王妃としてエルザという女性を迎え入れた。
「そしてその2人の間にもすぐに子供はできなかったが父上…いやミカエルはエルザの美貌に虜だった。」
ミカエルのエルザに対する対応と自分への対応の違いにアルセイラは日に日に狂っていった。ミカエルに相手にされないアルセイラは基本自由に王宮への出入りが許されていた。ある日、街の外れまで散歩に出掛けていたアルセイラは道に迷い森の近くまで来てしまっていた。
そこで魔王イフリエルと出会ってしまった。
2人はお互いの正体も知らずに色々なことを話し、仲良くなった。彼らが身体の関係を持つまでそう長くはかからなかった。
「そうして産まれたのが私だ。母上は私のことをミカエルとの間に出来た子だと皆に説明し王女として育てることに決めた。」
「なんでお姉さんのお母さんは魔王を好きになっちゃったの?」
「どうだろうな…。魔王だからではなく好きになった相手が魔王だった…それだけなのでは無いだろうか。」
「待て待て!じゃあ魔王は実の娘と妻を誘拐したってことか?」
「いいや。母上の意思で私達は魔王軍に向かったのだ。」
「その事実を知ってジークフリードはベルゼヒルト達をころ…あれ?殺されたんじゃ…。」
勇希のその言葉を聞いてベルゼヒルトは素顔が見えないのに困った様な表情を浮かべた様に見えた。
「ジークが私達を…?そうか。そう言い伝えられているのだな。真実は違う。」
ベルゼヒルトとアルセイラを奪い返しに来たジーク・フリードはベルゼヒルトからその話を聞き自分を悪者にしてうまくやり過ごそうと提案をした。
「ジーク…私は…。」
「魔族…か。俺にとってはお前が何者でも関係ない。お前はベルゼヒルトだ。事情は分かった。お前達は反逆者として俺が殺した事にする。それでお前達は安全なはずだ。」
「そんな!ジーク!私はお前を…。」
「言うな…。ベルゼヒルト。」
「ジーク・フリード貴方の心遣いに感謝をしま…ずぅお」
ベルゼヒルトとジークのやり取りを見て感謝の言葉をアルセイラが述べようとした瞬間アルセイラの首は宙を舞った。
「いいねえ!愛って!」
その場に現れたのは木谷蘭だった。
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