第8話 特別な子
サマーラ村へと赴いた2人は村の現状を目の当たりにした。
「…。これは…。」
「お、お姉ちゃん!」
村は静まり返り、住居等は原型も残さず崩れ落ちていた。もはや怪人や村の住民達の姿などどこにも見当たらなかった。
「遅かったのか…?」
「そんな…!お姉ちゃん!みんな!」
泣きながら村の皆んなを呼び続けるメイをただ呆然と勇希が眺め立ち尽くしていると後ろから何者かに声をかけられた。
「め、メイか…?」
「誰だ!」
「…!おじいちゃん…!」
メイがおじいちゃんと呼ぶその人物はどうやらサマーラ村の村長と呼ばれる存在らしい。
「メイ!生きておったか…。よかった。こちらは?」
「英雄様だよ!王都から連れてきたんだ!」
「な、なんと!1人で王都まで…。英雄様…メイのことを有難うございました。」
「い、いえ!俺はただついてきただけなんで…。」
「おじいちゃん…。お姉ちゃんや他のみんなは…?」
「何人かは殺されてしまったよ…。しかしその犠牲のおかげで殆どの住民達はアクイーナ町に避難することができたんじゃよ。勿論アリスもなぁ…。」
アクイーナ町とはサマーラ村に面する町の一つである。村と違い憲兵が国から派遣されているためここよりは幾分かは安全だろう。
「お姉ちゃん生きてるんだ…良かった。」
「怪人はどうしたんですか?」
「わからない…。突然消えてしまったよ。」
「…。あなたは何故ここにいるんです?」
「ああ…。わしはメイのことが心配で探しに来たんじゃよ。メイは特別な子じゃからな。」
「特別な子?」
実はメイはスキルを所持していた。彼女のスキル名は「守護神」。神が付くその特別なスキルを使いこなすにはまだメイは幼いがその潜在能力の高さから特別な子と呼ばれ大切に村で育てられてきたのだった。
『守護神』
“シヨウシャガココロカラノゾンダトキニノミカゴヲサズケマショウ”
(神が付くスキルって…召喚士以上にやべえんじゃ…)
「さあメイ。わしと一緒に来なさい。英雄様こんなところまで足を運んでいただき恐縮ですが怪人は消えてしまいました。今日のところはお帰り下さって結構ですよ。」
「た、確かに怪人がいないなら俺は−−−」
そう勇希が言いかけた時、大きな銃声が鳴り響き同時にこちらに向かってきた弾丸は勇希の前を通り過ぎて村長に直撃した。
「め、メイから離れて…!にげて…メイ…。」
村長を撃ったのは今にも死にかけた様子の女の子だった。
「そ、村長!…は?」
撃たれたはずの村長の周りには一滴も血が飛び散っていなかった。
「そいつは村長なんかじゃない!怪人よ!」
「ふふ…。もう少しで特別なスキルを持ち帰れたのに…。残念だわ。」
先程まで老人の声質で話していた村長からは驚くほどに色っぽい女性の声が聞こえた。
しかしそんな声色とは真反対にとてつもない邪悪な覇気を感じ取った勇希は急いでメイを抱え銃を構える女の子の所に連れ離れた。
「君がメイのお姉ちゃんだろ?2人とも少し離れててくれ。」
「お姉ちゃん逃げよう!」
「で、でも…。」
「大丈夫!この人英雄だから!」
「変身!」
「あらっ!貴方、召喚英雄だったのね…!嬉しいわぁ…後輩くんっ!」
怪人は村長の見た目から既に若く艶っぽい見た目の女性へと姿を変えていた。
「後輩…?ああ。おねえさんも召喚英雄かよ!」
勇希は猛スピードで怪人に突っ込み体重を乗せた右の拳で攻撃を繰り出した。
「ええ。そうよ?リフレクション!」
「ぐふっ!」
怪人を殴ったと思った瞬間、攻撃を繰り出したはずの勇希が何故が吹っ飛んだ。
「な、何しやがった…?」
「ふふ…。反射魔法ってやつよ。」
「魔法使いか…。」
「見た所あなた身体強化ではなく児童向けのテレビ番組みたいねぇ…。そんなので私に勝てるかしら?」
「さあな!」
再び怪人に向かった勇希は今度は1発ではなく複数回の打撃を打ち込んだ。
「エアウォール!」
しかし今度は怪人の出したシールドの様なものに防がれてしまった。
「くそっ…!」
「ふふ…。あなたに勝ち目なんてないんじゃなぁい?」
「うるせえよ…。」
(確かに勝ち筋が見当たらねえ…。けど後ろには守ってやらなきゃいけない奴らが2人…。)
「一度引いて考える暇なんてねえんだよ!」
「はあ…。残念ね。ソーラーレイ。」
怪人がソーラーレイと唱えると持っていた杖が眩しく光その光がレーザー光線の様に勇希の肩を貫いた。
「いってええ!」
あまりの激痛にヒーローである勇希の口から“痛い”という言葉が漏れてしまった。
「お兄ちゃん!」
「くんな!メイっ!」
「あら…。あなたは殺すつもりはないのだけれど…。ソーラーレイ!」
心配して勇希に駆け寄ってきたメイに向かって怪人は無慈悲にも攻撃を仕掛けた。
放たれたソーラーレイはメイに直撃するかと思われたが突如メイの前に現れた人物が振り翳した剣が怪人の攻撃を弾き返した。
「なんのつもり…?」
「ウェザーリア…。お前こそなんのつもりだ。こいつは殺さない命令だったはずだ。」
突如現れたその人物は怪人をウェザーリアと呼んだ。
「いいじゃない…。そんなスキル無くったって私達幹部が居れば問題ないわ。」
「命令は絶対だ。勝手な判断をするな。」
「幹部…?」
「あら?後輩くんは知らないのね!怪人軍には5人の幹部がいるのよ。私やそこのカイザーもその1人よ。」
「怪人なのか!?なぜメイを…。」
「そういう命令だからだ。」
「ウェザーリア!今日は引き上げだ。」
「はあい。またね後輩くん!」
「待て!お前達はなんで怪人なんかに手を貸すんだ!」
勇希は痛みで朦朧とする中、幹部を名乗る怪人に問いかけた。
「…。なら貴様は何故人間に手を貸す。」
「そ、それはお前達が人を襲うから…。」
「人間も怪人も魔族も変わらんと思うがな…。」
「ばぁいばぁい!」
そう言い残し去っていく2人の怪人を視界に移しながら勇希は怪我の痛みで気を失ってしまった。
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