第7話 囚われの過去


「それから10年…。10年も人々は怪人達から怯えて過ごした。息子の気持ちを考えていないわけではない。しかし私は国王…。家族の命だけではない国の命を守らねばならないのだ。お主はもう既に一度国を救ってくれた。サガの…サガの心も救ってくれんか?」


「サガと会ったばかりの俺に何が出来るかまだわからない…けど!俺はそういうのもひっくるめてヒーローでありたいんだ。任せてくれ国王!」


「そうか…。感謝する。だがしかし今はそれ以外に頼みたいことが一つある。アルバンス説明を。」


「英雄が召喚されなくなり10年。我が国の力は衰え始めました。元々、7大陸の内4大陸は我が国が治めておりましたが現在は、2大陸を我が国が3大陸を怪人達、残りの2大陸をそれぞれ帝国サンスールとレーキ連邦国が治めています。

怪人達について説明は不可かと思いますが残りの2大国について説明しましょう。」


レーキ連邦国それは『召喚士』により壮大な権力を持ったミカエルの独裁国家を防ぐべく、ミカエルの傘下に無理矢理入れられた元各国の王族、貴族達が創立した大国の一つである。


そして、サンスール帝国。普段は独立を貫いており他国に接触はしてこないがこの国はミカエルの死期あたりに設立された国とされている。更に帝国の皇帝は歴代誰1人として表舞台には出て来ず誰もその正体を知らないという。帝国はある時にのみバラガント王国に接触をしてくる。そのある時とは英雄が召喚された時である。


「10年ぶりに召喚されたお主に帝国は接触してくるだろう。何もわからん国だ。こちらとしてもあっちの情報が欲しい。勇希殿に接触してきた際に帝国のことを少し探ってもらえぬか?もし危険だと判断した際は手を引いてもらって構わない。」


「わかりました。やれるだけやってみます。」


「こ、国王陛下!大変です!」


勇希とグンテルがそんな会話をしていると街の憲兵の1人が大慌てで駆け込んできた。


「どうした。落ち着け何があった?」


アルバンスが憲兵に問いかけると


「ま、街の住民達が次々と怪人化して暴れています!」


「どういうことだ…?怪人化すんのは英雄だけじゃないのか?」


「僕にもわからない。こんな事は初めてだからね。」


「とにかく行ってくる!」


「すまん勇希殿!街を頼む…。しかし、街の住民が怪人化だと…。」


とりあえず勇希はアルバンスや衛兵何人かと共に王宮を飛び出し街へと向かった。


「なんだよこれ…。」


街に着いた勇希達がみた光景はさっきまでの和気藹々とした街ではなく半壊した建物やつい目を背けてしまいそうになる無惨に殺された人々の姿だった。


「そんな…。女子供まで…。」


「アルバンス…。悲しんでる場合じゃねえ。来るぜ。」


怪人化した3人が勇希達に向かって雄叫びを上げながら攻撃を仕掛けてきた。その中には先ほど街を救った勇希に対して労いの言葉をかけた住人も混ざっていた。


「おっさん…。アルバンス!怪人化した人間を元に戻す方法は?」


「わからない…。そもそも英雄以外が怪人化する事象自体が初めてなんだ。それの解決策などあるわけがないだろう。」


「くそ…。」


「勇希殿!考えている場合ではない…。今は怪人化した民達ではなく襲われている民のために戦ってくれ!」


勇希が怪人化した住民達をどうするか迷っている間にも街の被害は大きくなり続けている。


「わかった…。変身…!」


覚悟を決めた勇希はスキルを使用して戦闘態勢をとった。そして襲いかかってきた3人の攻撃を避け足元を狙って拳を突き出した。

勇希のパンチにより街の路盤は弾け怪人化した3人の足元は大きな穴となり崩れてた。


「すまねえが元に戻す方法が分かるまで拘束させてもらう。」


勇希は怪人化した3人を生き埋めにする事で動きを封じる事にした。


「怪人化してるなら土に埋められた程度じゃ死なねえ…。この人達をここに閉じ込めている間、誰も近づかないように見張りを寄越してくれ。」


「君って以外と残酷なんだね…。」


「仕方ねえだろ…。」


「か、怪人を倒したのか?」


様子を見ていた住人達が勇希達の周りにゾロゾロと集まってきた。


「ああ…。」


「おお!やはり英雄様は最強じゃないか!」

「あの方が噂の英雄様らしいわよ!」

「もっと大男なのかと…」


またもや怪人を倒した勇希に対し街の住民たちは大勢で勇希を囲み、歓声を送った。

そんな住民達の足元の隙間を縫って勇希前に10歳位の女の子が現れた。


「え、英雄様ですか…?お姉ちゃんを助けて…。」


突然現れた少女はまるで何かに襲われた後のようにボロボロの見た目をしていた。


「え?どうしたんだ?そんな格好で…。何があった?」


「サマーラ村でも怪人…?が出てお姉ちゃんが私を逃してくれて…それで、それでね?」


アルタイナ王国には今勇希達のいる王都とは別に7つの街と3つの村が存在する。サマーラ村とはその村の1つなのだが王宮を基点に王都、街、村と距離が離れているためサマーラ村から王都までは大人でも徒歩で2日以上かかる距離であった。それを10歳程度に見える少女が1人で移動してきたのだった。


「サマーラ村…?そんなところから…。」


「遠いのか?」


「2日はかかるかと。」


「まじ!?お嬢ちゃん名前は?」


「メイ…。」


その少女は勇希に名前を聞かれメイと名乗った。


「よく頑張ったな!あとは俺に任せとけ!」


「た、助けてくれるの!?」


「当たり前だろ?こんな可愛い女の子が頼ってくれるんだからお兄さん頑張っちゃうぞ!」


「ありがとうおじちゃん!」


「話聞いてた?お兄さんだって…!」


「勇希殿…。言いづらいけど大人でも2日かかる距離だ。彼女が村を出てきた日数を考えるともう既に…。」


「だったらなんだよ。こんなまだ小さい子供が体張って頑張ったんだ。俺はそれに応えてあげたい。何か出来たかもしれないのに何もしなかったで終わるなんてごめんだ!」


「わかった。国王には僕から伝えておく。」


「よし!じゃあ行ってくる!」


「待って…!メイも連れってて!お姉ちゃんを助けないと。」


「ダメだ!危ないだろ?」


「でもでも!」


連れて行ってもらえないとわかったメイは今にも泣きそうな顔をしながら勇希の服を掴んでいる。


「はあ…。勇希殿の側より安全な場所なんてないでしょう…。連れて行ってあげては?じゃないと彼女あなたの服の離さないしね。それに勇希殿道わからないでしょ?」


「ぐぬぬ…。わかった。連れて行くけど俺から離れんなよ!メイ!」


「うん!」


そうして勇希はメイと2人でサマーラ村へと出発した。






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