第6話 絵本


「ジークがなんで2人を…。」


自分と同じく英雄として召喚された筈のジークが王妃と王女を殺害した事に勇気は驚いた。


「さあな。この話を知る当時のものは誰も生きていない。何故ジークがそのような事をしたのか確かめる術がないのだよ。さあ、話を戻そう。」


王妃と王女を殺害したジーク・フリードを討伐する為に国は蘭を含めた軍を動かした。その判断が更なる悲劇を生む事となってしまう。


ジークは醜く悍ましいものと姿を変えていた。

そんなジークの力には蘭でさえ全く歯が立たなかった。ジークは軍を全滅させ、英雄である蘭だけではなく国王ミカエルをも殺害する事となった。唯一の救いはミカエルの息子であるアルタイルのことをジークは見逃したため、『召喚士』のスキルが失われることを避けられた事だった。


その後アルタイルは幼いながらも召喚を成功させ3人目の英雄を呼ぶ事となる。しかし、その3人目もジークを討つ前にスキルの暴発により怪人化してしまった。


それからジークの姿を見たものはいないが次々と召喚されていく英雄達は皆、怪人化していった。


「そんな英雄達の姿をみた国民達は召喚の反対を訴えた。だが、しかし怪人に対抗できるのも英雄だけ…。だからガンダハール家は召喚を続けるしかなかった。勿論私もな。」


グンテルはメシエッタとサガを妻であるシルマとの間に授かった。このシルマという女性はとても品性があり、誰に対しても優しく平等に接する素晴らしい人間であった。メシエッタやサガが間違ったことをすれば厳しく叱り、怖い夢を見た夜は眠りに着くまで絵本を読み聞かせてくれるそんな真面目で優しい母親が2人は大好きだった。



だが、幸せな家族の時間はいつまでも続かなかった。40人目の英雄。つまり勇希の前に召喚された英雄であるグンバーニャと言う男が召喚された時、サガはまだ8歳だった。


グンバーニャは実力だけは本物であった。現に怪人となった英雄を1人討伐する事に成功していた。だからこそ持て囃され天狗になった彼の国への要求はどんどんひどくなっていた。


ある日のことだった。グンバーニャは街で何人もの女を連れ、たらふく酒を飲んでいた。そんな彼の元に王妃であるシルマが訪ねた。


「英雄様。失礼を承知の上で言わせて頂きます。どうかこの様なところで遊んでいないで一刻も早く怪人を討伐して下さい。」


「あ?てめえらが勝手に呼び出しといて随分と上からじゃねえか?」


「身勝手な話だとは理解しています。ですが貴方も英雄という立場を利用して充分遊ばれたではないですか。」


「女が俺に説教だぁ?てめえ…。」


図星を突かれ返す言葉を失ったグンバーニャはシルマの襟元を掴むとそのまま店先に引き摺り出した。周りの大人達がとめに入るも逆効果だった。


「うるせぇ!俺は英雄だ!てめえらは頭下げて助けてくださあいって媚びてりゃいいんだよ!」


「お逃げください!お母様!」


「サガ!!何故ここに!」


8歳の子供が母を追ってこっそりついてきてしまったのだ。


「ガキィ…。てめえ如きが俺に逆らおうってか?」


「あ、おやめ下さい!まだ子供です!」


「うるさい!お母様をいじめる奴は私が−−−」


そうサガが言いかけた時巨大化したグンバーニャの掌がサガの上で大きな影を作った。


とてつもない衝撃音の後にグンバーニャの掌の下から現れたのはサガを庇い突き飛ばし潰されたシルマの姿であった。


「お、お母様…?」


「チッ…。興醒めだ…!王妃をころ、!?アガァァあああああああ!!」


グンバーニャの様子が突如おかしくなり彼は叫び悶え始めた。


「何事ですか!皆さん避難…!お、王妃さま…!?」


騒ぎに駆けつけた憲兵は無惨な姿の王妃に気がついた。そして禍々しい姿へと変わっていくグンバーニャの姿も発見した。


「こ、これは英雄様なのですか…?何が起きて−−−」


憲兵の首が飛んだ。飛ばしたのは勿論怪人化したグンバーニャのデコピン1発だった。


グンバーニャの『変身者』は巨大な体を持つことができるが、彼が全身の巨大化に成功させたことは一度もない。しかし彼の身体はすでに30メートルを超える巨体となっていた。


その後、人語すらも忘れた彼は街の住人など見向きもせずたった5歩で街から出ていってしまった。


「お母様…!お母様!くそ!英雄…殺してやる!私が…僕があいつを殺してやる!英雄…いや怪人共を殺してやる!」


この事件が心優しかった少年サガの心を変えてしまった。








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