第5話 呪い

『召喚者』

自身が望んだものを召喚することができる。

召喚されたものが壊れるまで次の召喚は出来ない。

※このスキルはガンダハールの血筋のみが使用することが出来る


バラガント王国の国王に代々継承されるスキル

『召喚者』このスキルが人を召喚したのは3代目国王であるミカエル・ガンダハールが最初である。ミカエルは最初こそは先代同様、火や水、岩などを召喚し、自ら民を危機から救う英雄として皆を導いていた。しかし、その頃人類を絶望の淵に落とした魔王軍の進軍によりミカエルは自分自身の力では民を守りきれないことに気付き、他者の助けを望んでしまったのだ。


「そうして召喚されたのが初代英雄、木谷蘭なのだ。彼の助けにより魔王軍と人類の力は五分…。そこでミカエルは英雄がもう1人居ればと。しかしながらこのスキルの条件によってそれは叶わなかった…。」


「その召喚スキルって使用者が別人なら…。」


「勇希殿、その通りだ。ミカエルは自身の弟であるガブリエラにもう1人の英雄を召喚させた。人類は更なる英雄の参戦に喜びを見せた…。しかし2人目の英雄。そやつがこの国の敵そのものを変えた。」


「2人目の英雄…。」


「殺したのだよ。木谷蘭を。」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


2人目英雄として召喚されたジーク・フリードのスキルは勿論『変身者』であった。


「良くやった…。ガブリエラ。これで人類は勝利に大きく近付く!貴様の死も人類の発展と私の地位の為だ。感謝するぞ。」


元々王位を継いだミカエルとガブリエラでは比べ物にならないほどの体力差があった。兄のミカエルと違い学問に大きく力を入れていたガブリエラであったがこの国にとって王とは召喚士と言うスキルを使いこなせる者である為ガブリエラは王位継承戦に負けたのだった。


結局ガブリエラは召喚こそは成功させたが対価として大幅に体力を消費してしまったためそのまま身体を壊し亡くなってしまった。


「おい…。ここは何処だ。お前らは誰だ。」


訳もわからず突然召喚されたジークは静かに問いただした。


「これは失礼した。英雄よ。私はこの国の国王ミカエル・ガンダハールである。貴殿を呼び出したのは私の弟だが、もうこの世にはいない。突然呼び出してしまって申し訳ないがこの国のもう1人の英雄である木谷蘭殿と一緒にこの国を救ってほしい。」


「英雄だぁ?勝手な事言ってんじゃねえよ。」


(どう言う事だ…。俺は確かツレと飲んでて…。ああ、酔いすぎて何も覚えちゃいねえ…!なんだここは!何人だこいつら?)


「君が2人目の英雄だね?」


「あ?誰だお前…。」


「俺は木谷蘭…。一応、君と同じ英雄って奴だよ。」


(アジア人…いや日本人か。ドイツ語を使っているようには思えねえが何故言葉が通じる?)


「お前ドイツ語を話せんのか?」


「いいや?この世界は君がいた世界とは違う。

異世界って奴なんだよ。最初は信じられないと思うけどね。」


「は?お前頭おかしいんじゃねえのか?」


「うーん…。そう思うのも仕方ないけどこれが事実だ。」


こんなやり取りで2人の英雄が初めて顔を合わせる事になった。


その後、初めは突然の異世界発言に頭が追いつかなかったジークだが、仕方なく、蘭と行動を共にしていくうちに自分自身の目で見ているものによってここが異世界であると認識せざるを得なかった。


それから数年、当時、人類と対立していた魔王軍は2人の英雄相手に成す術がなかった。そこで魔王はアルセイラ王妃とベルゼヒルト王女の誘拐を成功させることとなった。


「ベルが攫われた…?俺が討伐に出てる時に狙いやがったのか…。衛兵共は何をしてんだよ!」


自分のいなかった隙に姫が攫われた事に対しジークは国の衛兵達に対しても自分自身に対しても苛立ちを隠せなかった。


「ジーク。今は誰かを責めている場合じゃないよ。とにかく2人を探さなければ。」


「探す?簡単に言うなよ。魔王の居場所すらわからねえのに何処を探すってんだよ!ラン!」


「君は頭に血が上りすぎている。僕と君は仲間だ。争っている場合じゃない。」


「…。ああ、悪い。」


「とは言っても全くの目処が無い訳では無いんだ。聞いた話によると−−−」


王女達を攫った魔族はドラゴンを移動手段に使っており、小さくても体長80メートルを誇るドラゴンが飛行していたのを誰も見ていない筈がないと考えた蘭は誘拐の話を聞きすぐに街へと聞き込みに出かけていた。そこで聞けた有益な情報として、ドラゴンが王宮の近くを飛んでいて『竜の巣』と呼ばれる場所の方角へと飛んで行ったと言うものだった。


「竜の巣…。その名の通りドラゴン達の棲家だ。そこには100を超えるドラゴン達が生息していると聞く。こんなところでお前達英雄を失う訳にはいかん。」


「国王陛下。ですが攫われたのは貴方の家族です。我々に命じて下さい。」


「ならばどちらか1人。いやジークお前が娘達を助けに行け。」


「そんな!1人に行かせるなんて出来ません!」


(このクソ王様は国から俺ら2人が出払えば次は自分の番だと思ってんだろ…。自分が1番可愛いタヌキ野郎が。)


「ラン。俺が行く。国にはまだ5歳のアルタイルだっているんだ。それに王族だけを狙ってるとは限らねえ…。お前が守れ。」


「ジーク…。わかった!こっちは任せてくれ。」


こうして単身で『竜の巣』へと向かったアーサーは100匹のドラゴンを斬り、今世にも語り継がれる『竜殺し』の異名で呼ばれる事となる。

だが、彼が英雄として呼ばれることはなかった。


この事件はジークによる魔王及び、王妃、王女殺害で幕を閉じる事となったからだった。




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