第3話 街の英雄
イメージはいつもしていた。
もしも俺がヒーローならこう言う変身をしてこんな格好でこんな技を使って…みんなを救うって。
「姿が変わりやがった…!」
(え?見た目も変わったの…?)
よくよく手元や足元、顔なんかを触ってみると確かに何かを着ている。これが勇希のヒーロー衣装なのだろう。
「見た目が変わっただけで調子にのんなよ!」
「おいおい…。そりゃ死亡フラグだろ。」
「うおおおおお!!」
またもや攻撃の体制に移りスキルによって風の刃を飛ばしてくる怪人だがその無数の刃が勇希に傷をつけることはなかった。
「お、いいじゃん!いいじゃん!痛くも痒くもないってこう言う事なんだなぁ。ほんじゃ!次はこっちの番だ!」
そういうと、勇希はとりあえず怪人に向かって走ってみた。
「あ、あれ?通り過ぎちゃった…!」
「は…?いつのまに後ろに?」
あまりの速さに距離感を掴めず敵を通り過ぎてしまったどころか、銃弾を目視出来る怪人側でさえ目で追うことが出来なかった。
「おりゃ!」
勇希の突き出した拳はそれを受け止めようとした怪人の左手…いや左腕ごと消し去った。
「うぉおおおお!腕がぁあ!!」
「や、やりすぎた…?」
「早く止めをさせ!怪人は時間さえあれば傷を再生するぞ!」
自分の力を試している勇希に向かってアルバンスが怪人駆除を催促する。
「ナメック星人かっての!」
勇希はヒーローにもしなれたらキックを決め技にすると決めていた。それはまるで憧れの仮面ライダーのように。
「ユウキック!!」
勇希の蹴りは目標の怪人を消し飛ばすだけでは済まず地面をも少し削っていった。
「街を壊すな…。あと技名、あれなんだい…?」
「手加減したつもりだったんすけど…。あ!あれ?俺の必殺技っすよ!いいっしょ!?」
「ま、まあ!それは置いといて街を救ってくれて感謝するよ。」
「え?なんだ置いといてって…。」
「兄ちゃん!まさか、怪人を1人で倒しちまうなんてなあ!」
「護衛隊の方!?素敵だわぁ。」
街の人々が怪人を倒した勇希に感謝の言葉を送る。恐らくだが、王女直属の護衛隊の隊長ですら怪人を1人で倒せないとなると対怪人は人間1人では不可能に近いのだろう。
(いや…それにしてはアルバンス余裕ぶっこいてたからそうでも無いのかもな…。)
「そういや隊長!なんで俺のスキルの発動条件を!?」
「ああ。君のスキルはヒーローに関するものなのだろう…?」
「ああ。その通りだ。」
「だとすれば君がこの世界に召喚された41人目の英雄だからだよ。」
「は…?」
「驚くのも無理はない。この世界の人間では怪人達にはまるで歯が立たない。それは君も感じていると思うが。まぁ…ごく稀に怪人に対抗できる奴もいるが数が足りない。そこで他の世界から英雄を召喚しているんだよ。」
「そんな勝手なっ!」
「そうだね。君たちからしたら勝手だ。そこに関しては僕からも謝罪をしよう。申し訳ない…。あとで国王陛下からも謝罪と説明があるだろう。」
「俺の前の40人はどこに…?」
「死んだ…ことになっている。」
「死んだこと…?」
「君に条件を教えることが出来たのは今までの英雄達の条件が全て同じだったからなんだ。つまり40人…彼らのスキルの発動条件は“正義のヒーロー”なんだよ。」
「だから自分の中のヒーローになりきることでスキルが発動したのか…。それで死んだことになってるってなんなんだ?」
「前に説明したと思うけれど条件を満たさずにスキルを使用した場合、罰を受けると言ったね?」
「まさか…?」
「そのまさかだよ。英雄にとってその罰とは怪人化を意味する。」
その話はつまり、勇希にも怪人化する可能性があることを意味していた。
「いや…待てよ。じゃあ俺は今、人を殺したってことか!?」
元々が英雄と呼ばれる召喚された人間なのであれば勇希の言っていることはもっともで、捉え方によっては人間をその手で殺したことになるのだ。
「いいや。それは違う。彼らはすでに人間に仇をなす怪人となった。人類の敵である彼らを人間と呼ぶことは難しい…。それに彼らが人間ではなく君が殺人を犯していないと言うことは君の正義のスキルが証明しているだろ?」
勇希にとって殺人は悪であっても怪人を倒すことは幼い頃からテレビで見てきた正義の行いである。その上で、スキルは怪人化した英雄を殺す行いを正義と判断している。だからこそ、勇希は条件を満たして怪人化を免れている。
「仮にこれが殺人であったとしても君は街の人々を救ったヒーローだ。その事実だけは変わらないよ。」
全ての人に共通する正義なんてものは存在しない。どちらか一方が正義ならばもう片方は悪となる。それが世の中の条理。強きを挫き、弱気を助けることがヒーローの役割ならそれを全うすることが天命なのだろう。
「さてと、そろそろ行こうか。」
「どこに?」
「この世界に君を召喚した本人。国王陛下の元へだよ。」
この世界の異分子は、ほんの僅かにけれども着実に世界の歯車を狂わせ始めていた。
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