第3話 ロイの修行編

「はぁはぁ、」


「そんなんじゃ、入隊できないよ」


悪魔たちが現れてここ一帯は気温が低下している。

肌寒く息をするだけで喉が痛みを帯びる。

しかしそんな弱音を吐いていられない。

俺は今、避難所から遠く離れた森で修業をしている。

悪魔討伐部隊に入隊するために。

二週間後に始まる試験に合格しなければ入隊することは不可能。

悪魔をぶっ飛ばすためにも、

敵を取るためにも俺は全力で修業を遂行する。


「式神と契約していない人間と出会ったのは君が初めてだから、

 正直この修行が正しいかどうかわからない。

 ただ、入隊はさせてあげる」


そんな心強いことを言ってくれるのはありがたいが、俺は頷くkとも返事をすることも出来ずに息を切らしながら倒れこむ。


「きっつ、」


①朝の五時に起きて20キロ走る。

②腕立て伏せ1000回、スクワット1000回等の筋トレと縄跳びを1万回。

③剣の練習

④魔力コントロール

⑤悪魔と実践で戦う

⑥20キロ走る


この地獄のような日程だ。


「じゃあ次が剣の練習だ」


「なんで剣なんだ?」


「魔力のコントロールの練習も兼ねてする。

 魔力は物に流せばコントロール力が上がるから」


「なるほど…」


俺はアスカから剣を渡される。


「おっも、」


「重い?」


「これ…いや大丈夫だ」


死ぬほど重い。

これを両手で持つとかイカれてるんじゃないか?

筋トレで疲労した腕がプルプルと震える。


「じゃあ素振り1000回やって」


「…わかった」


こうして俺の地獄の日々が始まった。

一日一日、逃げ出しそうになる日もあった。

ただ、そんな俺が動けたのはあの日の夢。

夜の数だけ苦しみ見ていた夢が俺を突き動かした。

あの光景は一生忘れない。

あの悔しさも、惨めな俺の姿も。

あいつを、あいつら悪魔を超えるために、


「緊張してる?」


「まぁな」


朝の九時。

俺はアスカから背中を押される。

身体が震えるのは寒さではない。

この二週間、死ぬ気で頑張った事を無下にしたくない自分への責任が押し寄せていた。

あの日までは背負ってこなかった責任。

緊張と重圧で頭がいっぱいな俺の背中はポンと叩かれる。


「頑張れ」


いつも通りの無表情。

けど、俺に期待してくれている顔。

負けられない。

震えてちゃ戦えない。

ロイはパチンと音を立てて頬を叩く。


「あぁ、行ってくる!」


そう言って俺は魔物討伐部隊入隊試験の門をくぐった。


「アスカ、久しぶり」


「メイメイ、なんでここに?」


「期待の新人たちを見に来たのさ。

 それよりあれがアスカの弟子かい?」


アスカの隣に立つ赤髪の女。

剣を携える凛々しい姿に周りの女性、男性までもが釘付けになっている。


「まぁな」


「随分肩入れしてるけど好きなのかい?」


「な、何を言っている!?」


ちょっかいをかけられアスカは焦って否定をする。

それを見てメイメイはニヤっとする。


「だって彼、顔かっこいいじゃん。

 身長も高いし、図星?」


「ち、違う!

 そういうのじゃない!!」


「じゃあ何なの?」


「任されてる…

 というより、彼には期待してるんだ。

 もういいだろ」


アスカはこれ以上突っ込まれないためにもメイメイから距離を取る。


「分かりやすいんだから。

 けど、式神の居ない子か…」


ガタイのいい人がたくさんいる。

けど、俺もこの二週間で筋肉がついて身体が大きくなった。

負けてない。


「あれ、雑魚じゃん」


そう俺は指を指される。


「なんでここに居るんだ?

 まさか受けるんんじゃないよな?」


そう言ってニヤつくのは俺の中学の同級生たち。

俺のことを馬鹿にしていたお山の大将気取り達だ。


「そうだけど、」


「ほんとかよ!w

 せいぜい死なないようにな、マヌケ」


笑い馬鹿にしてくるだけで、いつものように攻撃をしてこない。

それはここが大衆の面前であるからだけ。

そうでなければいじめられていただろう。

怖い。

あいつらを前にすると視線が下がってしまう。

強くなった自負があるが、植え付けられた恐怖が身体を硬直させる。


「頑張れ」


アスカの声が脳内を駆け回る。


「そうだな…」


ロイは前を向く。

拳を握りしめて。


「ただ今から試験の概要を説明する。

 試験の概要、それはこの先の森にて悪魔の心臓である魔玉を10個集めること。

制限時間は3時間。

集め終わったらここに戻ってきてくれ。

 以上だ。

 では五分後に開始する」


試験の概要が説明され、周りがざわめき始める。

それは不安な内容ではない。

「楽勝じゃん」という内容。

ただ、こと俺にとっては楽勝とは言えない。

試験内容がシンプルな事だけが救いと言える。


「では、始め!!」


若い黒服の男が大声でそう叫ぶ。

エントリー者は勢いよく森の中へと突き進んでいく。


「行くか…」


高鳴る鼓動を胸を押さえて確かめ、俺も森へ走っていく。


「助、けて…」


「は?」


呼吸が乱れる。

走って数分。

走ることは慣れている。

だからこの程度で息切れすることは無い。

つまり走ったことによって乱れているのではない。

目の前にいる、大量の死体と巨大な蜘蛛の悪魔に呼吸を荒くしていた。

式神の恩恵を受けている彼らが、ガタイの良い参加者の死体が血だらけで散らばっている。

そこには参加者の集めたであろう魔玉が散乱している。


「マジか、」


蜘蛛はこちらに視線を向ける。


「やるしか、、ないのか…」


ロイは薄黒い剣を構える。


「見せてやる、修行の成果を」

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