放課後にて

「あっ、せんぱーい! 待ってくださーい!」


 ある日の放課後、家に帰るためゆっくりと校門へ向かっていたあやは背後から聞こえてきた声に足を止める。


 後ろから大きく手を振りながら走ってきた夏美なつみは、彩の下へやってくると手を膝につく。


「ちょっと待っててくださいよう!」

「なんで待たないといけないの」


 冷たく言い放った彩、だけど言葉の割には夏美の息が整うのを待ってくれているようにも見える。


「先輩と一緒に帰りたいからに決まってるじゃないですか!」

「あっそ」


 顔を背ける彩、しかしそれでも先に行こうとはしない。


「うわ冷た」


 ようやく息が整った夏美、彩はそれを確認すると足を動かす。


 さっきと同じように、ゆっくりとした足取りで校門まで向かう。


「先輩聞いてくださいよ。今日の夕食唐揚げなんですよ」

「ふぅん。よかったね」

「先輩の家は今日の夕食なんですか?」

「知らない」

「そうですか」

「…………」

「…………」


 彩に嫌われないかと、夏美はよく不安になる。


 元々引っ込み思案な性格だったのだが、堂々と振る舞う彩に憧れ、勇気を出して彩と接するようになった。


 彩を追いかけてこの高校へやってきて、一年以上経つ。


 それでも二人の距離感は変わらない。


 これ以上変わることはないのかと、半ば諦めかけていた夏美だったが、とある同級生とその先輩を見て、いつかあの子とあの先輩みたいになれたらいいなと思った夏美。


「先輩」

「なに?」

「明日も一緒に帰りましょうね」


 いつか変わると信じて、夏美は今日も彩と過ごすのだった。

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