百合の一幕 彩と夏美の変えられない日常
坂餅
回転寿司にて
下校時間を過ぎたころの、夕方の回転寿司店はまだ混む前。ドアを開けるとすんなりと席に案内される。そんな客がまばらな店内に二人の女子高生がいた。
「先輩って納豆巻き好きですよね」
そう言って玉子を食べるのは高校二年の
「そうだけどなに?」
そう素っ気なく返すのは高校三年生の
「先輩冷たくないですか? まあ慣れてますけど」
夏美は口を尖らせる。
「じゃあいいじゃん」
「いいんですけどお!」
夏美はそう言って頭を抱える。
慣れているからと言ってそれを言われてもいいという訳ではない。
しかし、夏美はそれを言うことができなかった。
「早く食べなよ」
そんな夏美を放って、彩はタッチパネルで追加の納豆巻きを注文する。
回転寿司に来ているのに納豆巻きしか食べないのは少し勿体ない気がするが、それも夏美はツッコまなかった。
無言でレーンから寿司を取って食べていると、不意に彩が呟いた。
「さっむ」
今は五月だ、ブレザーを着なくても問題無い季節なのだが、回転寿司店内は肌寒い。
ブレザーを着ていない彩は身を震わせる。それに対して夏美は寒がりのため、ブレザーを着ていた。
「私のブレザー貸しましょうか?」
夏美は厚着してきているため、少々寒くても大丈夫なのだが――。
「べつにいい、夏美は寒がりでしょ」
そう言って彩はコップに熱湯を注いで手を温めていた。
「でも……」
「温い物食べるから大丈夫」
タッチパネルでうどんを注文した彩はお湯を一口飲む。
風邪はひかないだろうが少し心配だ。
だけど上着を貸すと言っても受け取ってくれる様子ではない。
それでも少しでも彩に寒い思いをしてほしくないと思った夏美は、恐る恐る手を伸ばして、彩の手を握ることにした。
「なに? 急に」
怪訝な顔を向けてくる彩に夏美は返す。
「先輩をあっためてあげようかなーって」
緊張で手汗が出てくるが大丈夫だろうか。
「別に手を握られたぐらいで温くなんないでしょ」
冷たいことを言ってくる彩だが、言葉の割には手を払いのけようとはしてこない。
だけど払いのけられないという保証は無い。だから夏美は挑発する。
「じゃあ試してみましょうよ」
彩は目を閉じてため息をつく。
「うどんが来るまで」
「……ありがとうございます」
そう言って夏美は両手で彩の手を包み込む。
夏美の持つ熱が、彩を内側からそっと温めてくれた。
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