第20話 再会?

 平僕のヒロインは、全部で7人。

弓道部の主将にして文武両道の生徒会長、水泳部のエースで将来のメダリスト候補、世界的に活躍する天才ピアニスト、政財界重鎮のお嬢様、人気インフルエンサー兼モデル、果ては後のハリウッド・スターとなる女優の卵までいた。


 その中にあって、唯一まともというか、普通の肩書きだったのが、幼馴染ヒロイン枠の「白崎美鈴」さんだ。


 彼女も他のヒロインに負けず劣らずの美人だし、代表挨拶を務めていることから分かる通り、全国模試で1位を獲るなど、作中随一の頭脳の持ち主だ。トラブルを解決するのも彼女の役目で、読者からは困った時の白エモンと呼ばれている。


 だがそれ以上に、他のヒロイン達のキャラが濃すぎる。何だよ、後のハリウッド・スターって…設定盛りすぎだろ!せめて、国民的女優ぐらいにしとけよ。


 そういう意味では、生徒会長さんも影が薄くなりそうなのだが、こちらは読者の間で絶大な支持を得ている。


 普段の凛とした姿と、時折り見せるポンコツな一面のギャップに、キュン死にするファンが大量発生。人気投票では、ぶっちぎりの1位を獲得するなど、その人気ぶりは止まる所を知らない。


 人気過ぎて、逆に主人公とくっつけるな!という脅迫文が届いたらしい。こわいね。


 途中で読むのを辞めた筈の俺が、なんでこんなに詳しいのかというと、前世の俺の友達に平僕のガチ勢がいたからだ。


 聞いてもいないネタバレを、勝手に暴露しまくって、余計読む気が無くなったのも、今となっては懐かしい思い出だ。


 そんな訳で、主人公が誰と結ばれたかも、当然知っている。だが、今は関係無いので割愛しておく。


 ちなみに、白崎さんではないということだけは言っておこう。彼女は所謂、負けヒロインってやつだ。作中での存在感の無さといい、ファンからの扱いといい、なんだか親近感が湧くな…


 それはそれとして、この状況ははっきり言って好ましくない。普通に息苦しい。なんとか抜け出す術はないか?


「あ、あのー。白崎さん?誰かと勘違いしてらっしゃいませんかね?」


 頼む、そうであってくれ!と、俺は一縷の望みを賭けて、彼女に尋ねる。


「私、人違いなんてしてないよ?テルに会いにきたんだよ?」


 Oh No!俺の事をそう呼ぶって事は、間違いなく知り合いだ。それも、かなり親しい間柄。


 だとすると、これは俺が忘れているだけか?滅茶苦茶失礼じゃねぇか!不味い、何とか思い出さないと…


「というか何で苗字で呼ぶの?前みたいに、美鈴って名前で呼んでよ。それとも、まさか…私のこと忘れてるの?」


 ギクッ!


「ねぇ、そんな訳ないよね?何とか言ってよ…」


 腕の力が更に強まる。ウッ!今ので、あばら何本か持ってかれた気がする…


 やばい!早く答えないと、殺される!ヒントは、名前呼び…美鈴…あっ!


 その時、生命の危機に瀕した俺の頭脳は、ベストな解答を導き出す。


「み、美鈴。本郷美鈴だろッ?も…勿論、覚えてるって」


「良かった、ちゃんと覚えてるじゃない。も〜、脅かさないでよねッ!」


 あっぶね〜、ギリギリで思い出せて良かった〜!

危うく、すり潰される所だった。


 それにしても、「白崎美鈴」が美鈴だったとは、完全に盲点だった。


 兄貴がユナイテッドのユースに入ってから、本郷家とは家族ぐるみの付き合いができた。俺と美鈴も何度か会っているのだが、ある時を境に交流がパッタリ途絶えてしまう。


 というのも、もう5年以上前の話になるけど、本郷家の両親が離婚してしまったんだ。確か理由は、旦那さんの浮気とギャンブル癖が原因だったと記憶している。


 兄の正明さんは、自分から父親に付いていき、美鈴は母親に引き取られた。


 正明さんは妹と離れたショックで、暫く試合でも、ミスを連発するほど落ち込んでいたと兄貴から聞いた。そこまで落ちこむなら一緒にいれば良いのにと思ったが、何やら複雑な事情があるらしい。


 一方の美鈴は、大好きだった父親と慕っていた兄に裏切られたという思いから、男を毛嫌いするようになる。そこで、主人公こと相澤くんが美鈴の心を解きほぐすのというのが原作の流れだった。


 本来の「白崎美鈴」は、ツンデレというか、長年の男嫌いが災いして、なかなか素直になれないという性格だった。


 断じて、今目の前にいる美鈴のような、ヤンデレキャラではない。


 美鈴がここまで変貌したのって、もしかしなくても俺のせい…?


「名字も変わってたし、美鈴が凄く綺麗になってたから、一瞬誰だか分からなかった」


「き、綺麗だなんて// 揶揄わないでよ…ばか」


 ギュッ!

大変可愛いらしい事をおっしゃる美鈴さんだが、照れ隠しで抱きしめる強さは、全然微笑ましくない。ウッ!内臓飛び出そう…


「あのさ、美鈴。そろそろ、離してくれないかな、なーんて思うんだけど?」


「え、なんで?私、二度と離さないって言ったよね?テルも私の側から離れるっていうの…」


 まずい!ミスったか?


「ちがう、ちがう。俺は、ずっと美鈴の側にいるよ。そうじゃなくて、これだとお互いの顔見れないだろ?久しぶりに会ったんだし、ちゃんと面と向かって話そう」

 

 慌てて誤魔化そうとして、口から出た自分の言葉が、まるで結婚詐欺師か浮気彼氏みたいだった。自分で自分にショックを受ける。いくら何でも、これで離してくれる訳ないだろう。

 

「むり…//」


 ほらね⭐︎

だけど、なんか思ってたトーンと違うな?もっと、拒絶気味に言われるものかと…詳しく聞いてみよう。


「なんで、無理なの?」


「だって、テルってば、カッコよくなり過ぎ// 遠くからようやく眺められるくらいなのに、至近距離で見つめ合うなんて、無理。堪えられない//今だって私、凄い心臓ドキドキしてるんだよ?」


 K A W A I I

どうしよう、めっちゃ…可愛いんだけど。今なら、シスコンの正明さんと、1年くらい美鈴の可愛さについて語り合える気がするんだが?


 しれっと、会話じゃなくて、見つめ合う事が論点になっているが、そんな事どうでもいいくらい、かわいい。


 たった今、生殺与奪の権を握られていた相手に、こんな事思うなんて俺ってばチョロいのかな?


 いや、美鈴が可愛い過ぎるだけだろ(IQ3)。


「俺はちゃんと美鈴の顔見て話したい。駄目かな?」


「ん〜、いいけど、3分だけ時間ちょうだい?心の準備するから//」


 もちろんさ!3分と言わず1時間くらい待つよ!違う、違う、そうじゃない。こういうのは俺のキャラじゃない。なんか、さっきから情緒不安定だな。


「分かった。準備できたら、腕を離して合図してくれ」


 すると、美鈴は背後で、コクンと頷くような仕草をした。


「ん//」


 宣言通り、3分ほど時間が経ってから、背中をちょんちょんと叩かれた。


 俺が後ろを向くと、美鈴は両手で口元を抑えていた。


「何してんの?」

 

 と俺が聞くと


「油断するとニヤけちゃうから、隠してるの!」

 

 という返答が返ってきた。


 あざとっ!あざと可愛いってこういうことか…俺は一つ賢くなった気がする。 


「まぁ、そのままで良いから聞いてくれ。美鈴さ、小6の時のファルコンズ対ユナイテッドの試合、観に来てくれただろ?」


「嬉しい//気付いてくれてたんだね」 


「うん。あの時、美鈴の声が聞こえた気がして、スタジアムのどこにいるかは分かんなかったけど、スッゲー力貰ったんだよ。家庭の事情で、サッカーとかもう観たくなかっただろうに、ありがとな、来てくれて。お陰で試合に勝てたよ。」


「ううん、試合に勝ったのは、テルが頑張ったからだよ。それに、私の方こそ、テルの試合観て元気貰ってたんだ」

 

「もしかして、結構試合観にきてたのか?」


「うん!」


「何だよー、声くらい掛けていけば良いのにー」

 

「ふふっ。だって、チームメイトと凄い楽しそうにしてたから、邪魔しちゃ悪いかなって」


「そんな事、気にしする必要ないのになぁ」


「うん。今度からそうするね!」


「あ、そういえば昔さ……」


 こうして、俺たちは思い出話に花を咲かしていく。





「そうだ、足はもう大丈夫なの?」


「怪我のこと、知ってたのか…」


「もちろん。暫くの間、UT謹慎処分で公式戦なかったでしょ?謹慎処分が解けた後も、テルの姿が無かったから、おかしいな?って思って調べたの」


「そっか、余計な心配させちゃったな。まだ、万全とは言えないけど、なんとか夏の大会までに間に合わせるから大丈夫!」


「やっぱり…あの4人は、地獄の果てまで追い詰める…」ボソッ


「なんて?」


「ううん。何でもない。そうだ!同じクラスに、相澤って人いるでしょ?」


「ああ、いるけど」


「その人、私の下僕なの!困った事あったら、好きにつかってあげて!」


 とても素敵な笑顔で、とんでもない事を宣う美鈴さん。


「下僕?」


「そう、下僕!」


 G E B O K U ???

 

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