第21話 下僕って何

 悲報 ラブコメの主人公さん、負けヒロインの下僕に成り果てる。


 おっけー、ぐー○る、げぼくについておしえて。


下僕: 召使いの男。しもべ。下男。かぼく。または、自分のことを卑下していう場合。



 ……はっ!余りの衝撃に、恐ろしく知能指数が低下していた気がする。俺の聞き間違いだったりしない?しないか…だって、はっきり下僕って言ってたもんね。


「それは、友達って意味ではなく…」


「下僕。本当にただの下僕。私、友達のことそんな風に言ったりしないよ?」


 美鈴は心外だと言わんばかりに、少し被せ気味にそう答える。


「ですよねー。美鈴はそんな娘じゃないよね。えーっと、それはどういう経緯で下僕になったの?」


「んーとね、話せば長くなるんだけど…」


 美鈴の話を要約するとこうだ。

両親が離婚して、別の小学校に通う事になった美鈴は、そこで相澤くんと出会う。ここまでは、原作と一緒。問題はここから。


 原作の美鈴は男嫌いだったが、今の美鈴はそんな事はなく、男子とも普通に喋る。その代わり、俺への執着心が強く、他はどうでもいいっていう感じのようだ。


 これに突っかかってきたのが、相澤くん。


「本当は男嫌いなのに、無理して男子と話さなくて良いんだよ」とか、


「君が心配なんだ」などなど


 よく知りもしない癖に、妙に馴れ馴れしく接してきたらしい。気味が悪かったので、無視していたら、他の男子から虐められるようになったとか。


 そこに毎回毎回、タイミングよく相澤くんが助けに入ってくるので、何か怪しいと美鈴は感じた。


 そこで、独自に調査を始め、ある時相澤くんが、いじめっ子達に賄賂を渡す場面を目撃する。


 その現場を押さえるだけじゃなく、他の証拠も揃えていった美鈴は、本人に対し、ある取引を持ちかける。


 親や先生に黙っている代わりに、自分の言う事は何でも聞くという、実に悪魔の様な提案だ。


 こうして、相澤くんは晴れて下僕となったという訳である。わー、良かったねー、めでたし、めでたし。


 いや、何にもめでたくないけどな!思わず、脳内セルフツッコミが飛び出る。


 最初、下僕って聞いた時は思わず同情しかけたけど、どう考えても自業自得だな。うん。


 でも、これで一応、自己紹介の時になんで俺の方をチラッと見たか、謎が解けた。たぶん、美鈴からあらかじめ何か聞かされていたのだろう。


 それにしても、話聞いてると、どうも転生者っぽいんだよな相澤くん。


 美鈴のこと最初から知ってるあたり、平僕を読んだことがあるのは間違いと思う。一度、ゆっくり話してみる必要がありそうだ。


「そんなこんなで、今に至るって感じなの」


「それは…その…何と言うか、大変だったんだな」


 いや本当、いろんな意味で。


「ん〜、そうでもないかな?私としては、試合に出てるテルの姿を観れない、この1年半の方が辛かった」シュン


 ズッキューン!

何だ、このかわいい生き物?天使か?天使なのか!


「ゔっん、俺リハビリ頑張って、レギュラー取れる様にするからさ、また応援よろしくな!」


 俺は声が上擦りそうになるのを、何とか抑えながら、美鈴に話し掛ける。


「もちろん!あ、そうだ。私も、サッカー部入ろうと思ってたんだ。マネージャーになって、近くでテルのこと支えたい!」

 

 健気…、めっちゃ健気


「美鈴がマネージャーになってくれたら、すげーやる気出るよ!たぶん、暫くは俺も、マネージャーの仕事手伝うことになると思うから、一緒に頑張ろうぜ!」


「うん!」



 一方、その頃

照人と待ち合わせていた翔太と英介は、いつまでもやってこない照人に痺れを切らし、直接捜しに行こうとしていた。


「まったく、テルの奴、遅すぎる!一体どこほっつき歩いてんだ?」


 翔太は腕を組みながら、イライラした様子で、その場で足踏みをする。


「最後に返信きてから、もう30分以上たってるもんなー。いくらこの学校、無駄に広いって言っても、流石に遅すぎる。もう、ここで待つより、捜しに行った方がいいんじゃねーの?」


 英介はスマホを弄りながら、間延びした声で受け答えする。実に、退屈そうな様子である。


「そうするか。ん?ちょっと、待て。あれって…」


 翔太が口からそう溢すと、英介も釣られて顔を上げる。


「どうしたん?何か…」


 二人が目をやる先には、美鈴と楽しそうに喋りながら歩く、照人の姿があった。


「アイツ………俺たち二人待たせときながら、自分は楽しく女子とお喋りかよ!」


 翔太は正に、怒り心頭といった様子で言葉を吐き捨てる。


「………………」


 反対に、英介は黙り込み、俯いてプルプルと震えていた。


「どうした英介?大丈夫か?おーい」


 翔太が目の前で手を振ったりするが、英介からは反応がない。


 すると突然、英介が走り出す。


 呆気に取られた翔太は、走って行く英介の背中をそのまま見送ることしかできない。


 英介はあっという間に、二人の元へ辿り着き、照人の胸倉を掴んで、こう叫ぶ。


「天内、てめぇ!白崎さんにg&@♨️✨$☆あ!」


 英介は、怒りで言葉を忘れたのであった。

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