第19話 前途多難
「平凡な僕と才色兼備な彼女達」
略して平僕。タイトルの通り、なんの取り柄も無い平凡な主人公と才能豊かなヒロイン達が織りなすラブコメだ。
(実はこの作品の作者と、君つばの作者は夫婦であるのだ。平僕の作者がアシスタントとして、君つばの作者の元で働いていたのが、二人の馴れ初めだ。この夫婦、お互いがお互いのアシスタントをしており、しれっと背景にそれぞれのキャラを映り込ませていたりする。コアなファンの間では、有名な話だったが、生憎、前世の照人はこれを知らなかった)
平僕の評価は、見事に二分される。魅力的なヒロイン達が可愛いから、いくらでも読んでいられるという派閥と、いくらなんでも主人公が無理すぎて、読むのを断念したという派閥だ。俺は後者だった。
まぁ、この主人公、良い所なんて殆どないにも関わらず、やたら滅多らモテる。優しいという1点のみで。
いや、おかしいだろ!
優しいだけでモテるなら、今頃、全人類兄貴に惚れとるわ!
だいたい、その優しさっていうのも、ヒロイン限定で発揮される優しさで、実にご都合主義的なものなんだよ。ヒロイン達、もっと男を見る目を養え!と思わずにはいられなかった。
その上、優柔不断ときて、いつまでもウジウジ悩んでるもんだから、最終的にヒロインに頼るという展開が多かった。情けない。余りにも情けない。これが、まぁ、読んでてストレスが溜まるの何のって話だ。とにかく、俺はこの主人公が嫌いだった。
はっ! 待てよ、あの時感じたイライラって…まさか、あいつが主人公か⁈ くそっ、主人公の顔が印象なさ過ぎて、全然思い出せねぇ。
でも、確か俺の記憶だと、主人公は内部生だった筈。何で、高入生のクラスにいるんだ?あー、もう訳わかんねえー!
訳わかんねぇと言えば、白崎さんだ。なんで、俺の方見てくるんだよ⁈ 自意識過剰っていう話ではなく、ガン飛ばされてるんじゃないかってレベルでこっちを見てくる。
その証拠に、俺が目を逸らそうが、後ろを振り向こうが、前を向けば、先ほどと寸分違わずに、壇上の上から、こちらを見つめる白崎さんの姿があった。
もうやだ、あの娘。怖いんですけど⁈ 俺たち、初対面ですよね? 俺、何かあなたにしましたか?してないですよね?頼むから、視線外してくれー!
周りは会場の1点を見つめる彼女になんの疑問も抱かないのか、逆に、俺の挙動不審っぷりが悪目立ちしてしまっている。俺は身じろぎしたいのを我慢し、ひたすらに、早く時間が過ぎることだけを祈った。
※
居心地の悪い入学式を切り抜けた俺は、クラスメイト達と一緒に、再び教室へと戻る。
全員が着席したのを確認すると、鹿野先生が喋り出す。
「それでは改めてまして、鹿野真由美です。担当科目は国語、主に古典を教えています。趣味はお城巡り。歴史が好きなので、歴史好きな人とたくさんお話しできると嬉しいです。皆さん、1年間よろしくお願いします!」
パチパチと教室内から、拍手が起こる。
「はい、ありがとうございます。次は、皆さんの自己紹介をお願いしたいと思います。では、出席番号1番の方から順に、名前と趣味、高校での目標を発表してもらってもいいでしょうか」
先生に指名されて、例のあいつが席を立つ。
「はい。相澤拓人。趣味は特にありませんが、強いて言うなら、漫画とかゲームです」
はい確定。
平僕の主人公くんだ。何故このクラスにいるのかという疑問は残るが、間違いなさそうだ。
「高校の目標は、とある人の夢を叶えることです」
ここでチラッと、俺を見てくる相澤くん。何でだよ!白崎さんといい、今日はやけに人に見られる日だな。
原作の心象が悪すぎて、どうしても、否定的な目で見てしまう。彼は何も悪いことはしていないというのに。
「これから、よろしくお願いします!」
パチパチ。
「はい。相澤くん、ありがとうございます!人の夢を叶えるとは、素敵な目標ですね。では、次の方お願いします」
こうして、自己紹介が進んでいき、2人挟んで俺の番がやってきた。
「天内照人っす。趣味はサッカー。今はやっと松葉杖が外れたばかりで、余り状態は良くないんですけど、サッカー部入って、全国制覇するのが目標です。よろしくお願いします!」
パチパチ。
「全国制覇とは、また大きな目標ですね!ただ、怪我されていたとの事で、余り無理し過ぎないよう気をつけてください。応援しています!私も、今年からサッカー部の顧問となったので、何かと顔を合わせる機会が多いかと思います。その時は、よろしくお願いしますね。では、次の方…」
自己紹介も無事に終わり、ホームルームも終盤に差し掛かる。
「明日はオリエンテーションがメインとなり、通常授業はありません。主に学校案内や、部活動紹介が行われる予定です。皆さん、遅刻しないよう気をつけてください。それでは、え〜と、相澤くん号令お願いできますか?」
「はい。起立! 気をつけ! 礼!」
「「「ありがとうございました!」」」
スマホを見ると、翔太達から連絡が入っていた。どうやら、俺達のクラスが一番最後だったようだ。
校門の立て看板の所で写真が撮りたいとかで、親同士が集まっているらしく、校舎前で待っているという内容だった。
俺は、了解とだけ短く返信し、靴を履き替えて玄関付近へ向かって歩いて行く。すると突然、背中にトンッと、軽い衝撃が走り、次いでお腹に腕を回され、羽交締めにされた。
俺は何事かと思い、後ろを振り返ろうとするが、その前に、犯人から声を掛けられる。
「やっと見つけた。もう二度と離さないからね♡勝手に居なくなったら、何するか分からないよ?」
下手人は白崎さんだった。目のハイライトを消しながら、そんな事を宣う彼女。俺を拘束する力は強く、肋骨からミシッと嫌な音が鳴る。
あ…やばい、俺死ぬかも…
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