第15話 一難去って
そこからは、正に死闘だった。
もう後がないヴェルーナは守備を捨て、死に物狂いで攻め込んでくる。
俺達も、守備で終わるつもりはなく、もう1点とるのだと攻撃の手を緩めない。
残り時間、後僅か。
ヴェルーナの猛攻を凌ぎ、攻撃に転じようとした時、俺の行手を遮ったのは、翔太だった。
互いに、目の前の相手を倒す為に、持てる力の全てを出し切ろうと、集中力を高める。
まずは、視線でフェイクを入れる。これには反応せず、真っ直ぐにこちらを見据える。分かってはいたが、今のこいつに小手先のテクニックは通用しない。
今度は翔太が詰め寄って来るが、俺は腕を使い間合いに入らせないようにする。
腕から翔太の力強さが伝わってくる。ここに来るまでに、相当な修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。だが、こっちも負けるつもりはない!
俺は逆に、翔太の勢いを利用する。
手を使って力を横に逸らし、その反動で前へ踏み出す。そして、そのままゴールへと向かっていく。
しかし、完全に抜き去った筈の翔太が、気合いで追いつき、横から強烈なタックルをお見舞いしてくる。
俺はボールをキープ出来ず、ボールはタッチラインを割ってしまう。
互いに一歩も譲らず、火花を散らす俺と翔太。その後も、バチバチの
だが、そんな楽しい時間もすぐに終わりを迎えてしまう。試合終了を告げる笛がなった。
「あー!ちっくしょー!負けた、負けた」
大の字に倒れ込み、悔しさを露わにする翔太。
「ナイスゲーム。強くなったな、翔太」
そう言って、俺は翔太に手を差し出す。
「嫌味か!お前もずる賢いプレー覚えやがって。二度も出し抜かれるとは思わなかったわ!」
憎まれ口を叩きながらも、翔太は俺の手を取って起き上がる。
「本音だっての。実際、最後の1対1は勝ったとは言えねーし」
「あれは、シュートまで持ち込ませなかった、俺の勝ちだろ。けど、今度は試合も含めて俺が勝つ!」
「勝手に言ってろ。次も勝つのは、俺だけどな」
「はいはい。ほら、俺とばっか喋ってないで、そろそろチームのとこ行けよ」
「ああ。それじゃあ、またな!」
「おう、またな!」
俺は翔太との会話を切り上げ、チームメイトの元に戻る。
「遅ーぞ、照人!」
「すんません」
「何話してたんですか?」
珍しく葵から話を振られる。
「ま、色々とな」
「…そうですか」
興味が無いのか、詮索しないでくれたのか分からん返事だ。たぶん、後者だと信じたい。
「よっしゃ! 勝利の立役者2人が揃ったところで、胴上げといきますか!」
「お、いいねー」
「やろうぜー!」
「いや、俺は遠慮しときます」
「俺もパスで。怪我したら元も子もないので」
「2人して、何を生意気なことをー!おら、全員囲め!」
「観念しとけ、お前ら」
「まぁまぁ、そう遠慮すんなって」
「マジで、いいって!」
「ちょっ、離してください」
「「「せーっの!」」」
結局、抵抗虚しく胴上げされる俺と葵。だけど、不思議と悪い気分じゃない。隣を見れば、葵が揉みくちゃにされている。
そこにはもう、孤独な夏目葵の姿はない。原作を乗り越え、しばらく頭を悩ませていた問題が、漸く解決したのだという実感があった。
その筈だった…
今にして思えば、この時の俺は、浮かれてたんだと思う。兄貴にも達成できなかったタイトルを手にし、日本一の喜びを仲間と分かち合うことに酔いしれていたのだ。
だから、俺は気付かなかった。
誰の心にも、悪意は宿るということに…
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