2章 中学編
第5話 中学生になりました!
あの決勝戦から7年後。
俺は春から、中学生になる。
その間、結構色んなことがあった。
小学校に上がった俺は、兄貴と同じように調布ファルコンズに入った。
そうそう、兄貴って呼び方になったのも、変化って言えば、変化だよな。
実は前々から、兄貴って呼んでみたかったんだよね。前世は一人っ子だったから、言う機会がなく、密かに憧れていた呼び名だったりする。
でも、5歳児がいきなり兄貴って呼び出すのは、不自然なので、タイミングを見計らってたというわけなんだ。
そういや、初めて兄貴って呼んだ時は、ちょっと寂しそうにしてたな。
話が逸れたけど、ファルコンズは低学年(1〜3年生)と高学年(4〜6年生)でチームを分けていたから、残念ながら兄貴と一緒にプレーすることは叶わなかった。
チーム内の練習では、学年を均等に割り振って紅白戦をすることもあったけど、やっぱり公式戦の緊張感の中、一緒に戦う事に意味がある。いつか必ず、兄貴と同じ舞台まで昇ってみせる。
俺も、順風満帆だったわけじゃない。俺は、周りより身体の成長が遅いタイプだったらしく、高学年チームに上がると思ったような活躍が出来なかった。
小さい身体では、当たり負けして簡単にボールが奪われることが多かったんだ。なら技術で勝負すれば良いと思っていたけど、体格で上回る相手に多少上手い程度では通じない。
俺のレベルは精々、時間をかければ誰でも到達できる程度でしかなかったのだ。兄貴ほどの技量、他を圧倒するような、規格外の才能を持って初めて、年上相手にも対等以上に渡り合えるんだという事を痛感した。
チーム内での、兄貴の存在は半ば伝説と化していて、その弟である俺にかかる期待は相当なものだった。
だけど、それに応えるだけの力が俺には無く、ただ上手い兄を持つだけの存在でしかなった。試合に出れるのは、その贔屓によるものだと思われるのも無理は無かった。
そうなると、不満が募らせるのが上級生達。実力の伴ってない奴が、将来性という点だけで、自分達を差し置いて、試合に出場できるのだ、当然面白い訳がない。
表立って、虐められる事はなかったが、パスを呼んでもこない、ペア練は避けられ、視線を合わせないなど、小さな嫌がらせを受けた。
低学年から一緒にやってきた、チームメイトがいなければ、ここで挫けていたかもしれない。
5年生の夏頃になって、周りの身長に追いついたのは良いが、その反面、俺は酷い成長痛に悩まさせれていた。
スタメン固定とまではいかなかったが、戦力の一つとして認められるくらいには力を付けていたのだが、痛みで練習すらままならない日々が続いた。
当然、試合には替わりのメンバーが出場し、親友がレギュラーに選ばれた時はかなり焦った。少なくない嫉妬心が、俺の心に芽生えた。
だけど、そんな俺のことを救ってくれたのも、また、親友の言葉だった。
「お前は、俺の親友でライバルだ!今はただ、先に俺が選ばれたけで、これでお前に勝ったとは思ってない。お前のポジションは、俺が一旦預かるけど、必ず奪い返しに来いよ。もちろん、俺も譲る気はねぇからな!」
どこかの、熱血スポーツ漫画の主人公が言いそうなことを、恥ずかしげもなく、真っ直ぐ言い放つんだ。
嫉妬心なんて馬鹿馬鹿しくて、どっか行っちまったよ。つくづく、俺は人に恵まれてると思う。
それから、体幹トレーニングや、なるべく身体に負荷がかからないメニューを腐らずに続け、小学校最後の大会には、なんとか間に合った。
成長痛に苦しんだだけあって、165cmと小学生にしては高めの部類に入った。
そして、俺と親友のレギュラー争いはというと、順当に2人とも選ばれた。そもそも、俺とあいつは、ポジション被ってないんだ。
俺は、主にワントップやツートップの一角を任せられるFWだし、親友はボランチやアンカーと言った、いわゆる守備的MFだ。そういう、抜けているとこも含めて、主人公っぽいなと思ってしまう。
迎えた最後の大会、全日本選手権東京予選。俺達は、破竹の勢いで決勝戦へと駒を進めた、ファルコンズにとっては5年ぶりの決勝の舞台だった。
兄貴がいた頃は、全国準優勝という輝かしい成績を残したが、ここのところは、目に見えた成果を残せていない。その要因は、兄貴に依存したチーム作りにもあったが、ファルコンズの行手を遮る、ユナイテッド・オブ・東京も大きな障壁となっていた。
ユナイテッドは、それまで兄貴にやられていたお返しと言わんばかりに、ファルコンズ戦は特に気合を入れて臨んでくるため、おかげでこちらは対戦する度にボコボコにされていた。
この時の決勝の相手は宿敵UT。俺達の代は、兄貴に憧れてファルコンズに入ったていうメンバーも少なくない。というか、ほぼ皆そうかもしれない。否が応でも、全員が燃え上がった。
試合は一進一退の攻防を繰り返し、親友の豪快なミドル弾で先制点をとると、すかさずUTが1点を奪い返す。
その後は暫くスコアが動かず、後半終了間際になって、ファルコンズがコーナキックのチャンスを得る。
一度はクリアされるも、親友がこれを回収し、俺に託す。そして、俺は託されたボールを直接ヘディングでゴールに叩き込み、決勝点をあげた。奇しくも、あの時の本郷さんと同じ得点の仕方だった。
俺は暫く呆然としていた。駆け寄ってくるチームメイトを見て、ようやく嬉しさが込み上げた。
試合終了後、俺達は泣いた。
お互いを褒め称え、只々皆で泣き合った。監督もコーチも、スタンドで応援してる選手の家族達も泣いていた。
俺は、あの時兄貴が出来なかったことを、成し遂げたのかと思うと、妙な興奮と達成感を味わっていた。夢が一つ叶ったような気分だった。
結局、全国では決勝ラウンド2回戦で優勝チームと当たってしまい、ベスト8止まりだった。
だけど、この時の活躍が認められて、ユナイテッド・オブ・東京のジュニアユースに誘われた。これを断る理由も無かったので、中学ではUTでサッカーを続けるつもりだ。
一方で、親友はUTのライバルチームである、東京ヴェルーナに誘われ、そちらに行く事に決めたようだ。
引退試合の後、親友と2人で語り合った。
「公式戦で当たっても、お互い恨みっこなしだからな。全力でやり合おうぜ!」
「当たり前だっての!」
この時の俺は、何も知らず、これからの日々に胸を躍らせていた…
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