第1話 兄は最強⁈
生まれ変わってから、1ヶ月が過ぎようとしていた。
その間俺は何していたかというと、普通に幼稚園通って、兄ちゃんが帰ってきたら、一緒にサッカーの練習するという、ルーティンを繰り返してた。
おいおい、仮にも元高校生が幼稚園通うなんて羞恥心感じないのか?
なんて質問は、野暮だからしないでくれよ。そんなもの、至福のお昼寝タイムの前では無力だと懇切丁寧に説明したい!
確かに、俺も最初は恥ずかしかったさ。でもやっぱり、多少なりとも心は身体に引っ張られるのか、外で走り回った後にご飯食べると、ちょうど良い眠気がやってくるんだよなぁ。
窓から入ってくる日差しと、時折り吹くそよ風の心地良さといったら、もう何ていったらいいのか。
高校でも、お昼寝タイムは取り入れるべきだと思うね、テストの点数10点くらいはあがるんじゃないかな。1時間以内の昼寝は脳に良いなんて聞くし、ぜひ検討してみて欲しいもんだ。
それにね、なんて言っても平和よ平和。園児同士のいざこざなんて、やれ〇〇くんはおもちゃを独り占めしてるだの、〇〇ちゃんのことが気になるけどつい意地悪しちゃうとか、もう側から見てると微笑ましいもんさ。
そこで、俺が間を取り持ってあげることで、おもちゃを独り占めしてた子は、皆んなと仲良くなれたし、好きな子に素直になれないヤツは、その子と少しは話せるようになったみたい。
まぁ、向こうはそれまでの印象が強いのか、まだ硬さは残ってるけど…。そこからはそいつの頑張り次第だ。
そんなことをしてたら、おやつの時間に、お礼にって事で、お菓子を分けてくれる子がちらほら出始め、最近じゃあ人数が増えて、お菓子交換会の様相を呈してる。なんか発想からして可愛らしいよね。
これが中学、高校に上がってくると陰湿なものになってくるんだから、時の流れって、怖いな。彼らには、純粋な心を忘れないでいて欲しいね。
で、こっからが本題。
うちの兄ちゃん、いや、兄上?兄様?って呼んだ方が良いかな。まじで、何者⁈ 前世、プロサッカー選手だったりしない?
いや、薄々感じてはいたんだよ?
2人で練習してると、リフティングは100回超えてもボールを落とす気配が全くしないし、パス練してても、俺が取りやすい様な絶妙な力加減で渡してくれるし。
そして、ボールが足下に吸いついてるかの様な鮮やかなターンとドリブル。もうね、顔も良くてこれとか、無敵かよ!って感じ。
でも、これはまだ序の口。
兄ちゃんの真価は試合でこそ、発揮される。
まず何と言っても、その視野の広さ。よく視野の広い、スポーツ選手のことを、鷹の目の持ち主なんて言うけど、まさにそれ。
俯瞰して自分を見られるからこそ、ポジショニングの上手さが際立つ。実際、兄ちゃんのパスカットから、相手の攻撃の芽を潰し、一気に反撃に転じるっていう試合展開が多かった。
パスに至っては、最早芸術品の域。受け手のトップスピードに合わせた、矢のような鋭いパスから、緩急で攻めるドリブラーには、足元にドンピシャなパスを与え、プレーの幅を広げる。まさに変幻自在な、パスを使い分ける。
相手も当然、兄ちゃんを警戒してダブルチームで対応するが、それも無意味とばかりに、華麗な股抜きやワンツーで抜け出し、観客を沸かせ、スタジアムをホームに変えてしまう。
極め付けは、そのキック精度。兄ちゃん相手にフリーキックを1本与えようもんなら、1点は確約されたようなもんだ。
左足から放たれたボールは、壁の外側を巻いて、ゴール左上隅へと突き刺さる。仮に、左のコースを完全に塞ぎにきたとしても、兄ちゃんは右も使える。
流石に、利き足の左と同等までとはいかないが、それでも、同年代相手には十分通用するレベルだ。
これは、あかん。あきまへんわ。
天才なんて生ぬるい表現じゃ収まらない化け物。到底、小学生が止められる相手じゃない。
下手したら、中学生でも無理なんじゃないの?そりゃあ、ファンクラブが作られる訳ですわ。
将来、日本の10番を背負って、司令塔としてピッチに君臨する姿が、容易に想像できる。
そして明日は、全日本U-12サッカー選手権大会の、東京都決勝。これに勝てば、全国!一家全員で、応援じゃあぁぁ!
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