ヨコヌキ【KAC20242】

春待みづき

ヨコヌキ

「制限時間は10分です。それでは、健闘を祈ります――」


おかしい。何かがおかしい。


僕は春からの大学生活に向けて、引っ越し先であるアパートの一室を内見に来ただけなのに……。


僕が立っているのは立方体の白い部屋の中心で、天井には白色の蛍光灯と換気扇。壁際には備え付けの小さな冷蔵庫と南京錠でロックされたクローゼットがあり、その反対側には古びた押し入れと小さな窓が一つだけ。

背後には入口と思しき扉があるが、外から鍵を掛けられてしまいびくともしない。


「残り9分です」


無機質なアナウンスに責め立てられ、僕は行動を開始する。


とにかく、まずは探索だ。


まずは窓を見た。一番簡単に脱出できそうだが、サイズが小さすぎる。あれでは頭しか通らない。


次に冷蔵庫を開ける。中にはお皿に乗った大きな氷が入っていた。

どうやら氷の中に何かのカギが入っているようだ。

悠長に溶けるのを待っている時間はない。

僕は氷の乗った皿を窓から差し込む日差しのもとへとセットした。

これならすぐに溶けるだろう。


その間に、僕は押し入れを調べることにした。

中は少々カビ臭いだけで何もない。

……いや、よく見ると隅っこに『ハ○ター×ハ○ター』の3巻が放置されている。

懐かしい。以前の入居者の忘れ物だろうか。

これ以上役に立ちそうなものはない。


氷がほとんど溶けかけている。

僕は氷を床に叩きつけ、中から鍵を取り出した。

鍵はクローゼットの南京錠の鍵穴にピタリとはまった。


クローゼットを開けると、そこにはバールのようなものが。


僕はこれを手に取った瞬間、すべてを理解した。


  †


「おめでとうございます。脱出成功です」


どうやら間に合ったようだ。

僕は部屋の壁をバールのようなもので粉砕し、外へ脱出することができた。

扉から外へ出ろとは言われていないからな。


「それでは、脱出成功の賞品として、こちらの部屋を敷金礼金ゼロでご契約させていただきます」

「お断りします」


悪質不動産には気をつけよう!

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ヨコヌキ【KAC20242】 春待みづき @harumachi-miduki

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