第47話 押し込められし秘密

     ……………


 路地を抜け、学校に向かいながら金田と柳生はこれからどう動くべきかを話し合っていた。


 「まずは……國山先生のとこに行け。……部活連中がお前を探している間に教頭や顧問の対応とかをしているらしい。俺は顧問への直談判で交渉しようとしていたが……。その時に使おうとしていた『材料』が國山先生の助けになるだろうよ……」


 「『材料』?」


 金田が訊く。柳生は笑って答える。


 「ああ、顧問の野郎の『音声』だ。俺等に対する『いやがらせ』のな。元々コレと俺の自白で学校の問題掻きまわすぞって脅して、お前の退学を取りやめさせ、俺の苛め発覚から責任取って退学って流れを作ろうとしてた……。実際流れとしても交渉としてもコレは良い筋書きだろ」

 

 金田は少し呆れた様子で答える。


 「お前が俺の代わりに退学ってのに俺が目をつむればな」


 柳生は軽口をたたくように言う。


 「ああその通り。だからもう交渉にせよなんにせよ、お前の部活の國山先生を頼ることになるって寸法だ。あの人はどうも、教頭と顧問に対して教育委員会への上告等の脅し、場合によっては大事にすることを視野に入れている……。俺単独の場合はあまりそういう風には動けない……証拠を預けるほどに信頼できる教師がいないからな……」


 「『信頼できる教師』か……」


 ――思えば國山先生は俺たち『放課後ダンジョンクラブ』に巻き込まれただけだというのに全力を挙げて協力してくれていた。あの人なら、俺と柳生の件を信頼して任せられる……そして、実際、任せてほしいと向こうから勝手に動いてすらいる。だからこそ……。

 金田は拳を握り締めて覚悟を新たにする。柳生がそれを見て伺う。


 「どうした?」


 「……お前の他に、もう一人……今度はもっと全力で……けじめを付けなきゃならねえ奴がいてな……。少なくとも俺はもう、逃げねえと決めたんだ」


 「……そうか」


 柳生と金田はそのまま真っ直ぐ学校へと向かった。昼時近くの通学路は閑散としていて、いつもの様子とはかけ離れていた。陽光の射す道を二人は歩いて行った。


     ―――――


 放課後、パソコン室にて金田はパソコン部に面々と柳生を交えた話し合いが行われていた。パソコン部の面子では三本と重吾がその場に不在であった。

 机の上に無数のノートパソコンが並ぶ無機質な室内で、回転椅子を向かい合わせて各々が顔を突き合わせている中で、國山先生が話し出す。

 

 彼女の話によると教頭に関しては昨日まで、問い詰めても『本人による自主退学で、勧告も出される前の行動だ。生徒の自主性に任せる』と言うだけでそれ以外の話はしなかったという。だが、本日になり金田が退学届の提出を行わない事で教頭は野球部顧問から相談を受けていたという。学年主任の体育教師である顧問の動揺は露骨で、昼休みにも柳生や金田を呼び出していた。その時、二人は國山先生の計らいで早退したことになっており、屋上で時間を潰していた。


 大体の状況が示されたところで、靖穂が國山先生に訊く。


 「……教頭先生は直接動いているわけではないんですね?」


 先生は頷き、靖穂の質問に答える。


 「ええ。今はそうね……。それに、元々野球部顧問の申し出を聞いて金田君への退学勧告を検討していたらしいの……。柳生君が話して、私にくれたこの『音声データ』の件は恐らくだけど、顧問が一人でやったことよ」


 柳生は皮肉っぽく笑う。


 「あの顧問ヤロウ、天然でやらかしてたってことか……ははは……」


 その乾いた笑いのあと、金田が國山先生に訊く。


 「それで……柳生の『音声データ』で俺たち二人への『追い出し』はどうにかできるんですか?」


 國山先生が決意を持った目で金田そして柳生を


 「明日、教頭に私が話を付けに行く……。そこでダメならこの証拠を教育委員会に……複製して送るだけよ。大丈夫、私はあなた達を絶対に退学にはさせない」

 

 靖穂はそれを聞いて、先生にある提案をする。

 

 「先生……。私にいい考えがあります。時間が少しかかるかもしれませんが……。ただ証拠を突き付けるよりも効果的だと思います」


 靖穂の提案が為される放課後のパソコン室。彼女の話が終わってしばらく経ち、夕焼けが部屋に差し込む頃。重吾が準備室から思いつめた様子で現れる。彼は、部室にいる金田に気づき、すぐに喜びの表情を浮かべ、金田に駆け寄って言う。

 

 「修君! 退学の話はもういいのか!?」


 金田はその様子に微笑みながらも少し気の引けたような声色で言う。


 「いや……まだなんだ……少しかかる……」


 重吾はその言葉を聞いてすぐに話題を転換する。


 「修君、戻るんだよな、『放課後ダンジョンクラブ』」


 金田は、それにまたも気が引けたような様子で答える。


 「それも……三本次第だ」


 重吾はそれを聞くと笑って言う。


 「じゃあ、三本を連れて来れば万事解決だ。アイツ今日はまだ意地張ってたけど、明日には必ず俺が引っ張り戻す。アイツだって修君と同じで、少し間が悪かっただけなんだよ。きっと大丈夫だ」


 金田は『何を根拠に』とも思ったが、不思議と自分が今まで逃げていた姿が、自分とぴったりと重なるように思えた。金田にとって三本は人とのかかわりを避け、怯えているように映っていた。だが、それは他から見た金田も、同じことなのだ。

 それを悟り、金田は重吾に言う。


 「分かった……。三本はお前が連れて来てくれ。俺の方は明後日には決着がつく……靖穂と、國山先生、稲葉さんに、俺の野球部の友達の柳生流ってののおかげでな」


 金田に感謝された周囲の面々は重吾につられるように、夕焼けの日が指すパソコン室で笑い合った。


 (続く)


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