第12話 悪しき蛇

     ……………


 靖穂のDMダンジョンマスターへの質問に、重吾が同調する。


 「ああ、実はおれも疑問に思っていたんだ。普通、ウシ頭って言ったらミノタウロスとかがメジャーなのに、『モラクス』って、誰だよって」


 重吾の質問を聞き、DMダンジョンマスターが口を開く。


 「悪霊モラクスが如何なる存在か……ですか。それはなんと答えたものか……」


 「あの悪霊は言葉を扱っていました。『封印された』とも……」


 DMダンジョンマスターは顎に手を当て、考えるような様子で靖穂の質問へ答える。


 「そうですね……。あの悪霊のみならず、この場所にいる悪霊たちは全て、私がこの場所に封印している者たちです。本来ならばもっと厳格に縛っているのですが……」


 「……『巨人』だかのせいで封印が緩み暴れているというわけか」

 

 重吾がそう納得する。しかし、靖穂は質問を続ける。


 「でも、あの悪霊には……こう……特別な感じがありました、『伯爵にして総帥』という二つ名やそもそも階段を守るボスとしての立場もそうですけれど……こう……もっと何と言うか引っ掛かるところが……」


 三本が怪訝な表情を浮かべる。


 「そうか? 僕にはただのボス敵にしか思えなかったけど……。喋るのは驚きだったけども……」


 DMダンジョンマスターは表情を変えることなく答える。


 「この迷宮ダンジョンの上層にはボス以外の敵でも言語を操る敵は現れますよ……いずれ貴方たちも知ることではありますがね。そう言う意味では、かの悪霊も他と変わりないとも言えましょう」


 DMダンジョンマスターは変わらず笑みを絶やさない。その返答に靖穂は内心不服ながらも納得したように「わかりました、ありがとうございます」と返答し場を終わらせた。

 國山先生が腕時計を見た後、全員に言う。


 「じゃあ、そろそろ時間なので皆、帰りましょう。今日もありがとうございました」

 

 DMダンジョンマスターは笑顔のまま一行を見送った。


     ―――――


 パソコン室へと戻った後、國山先生は少し考え込むような様子を見せていた。重吾はそれを見て、尋ねる。


 「どうしたんです? 先生、また心配事でも?」


 「ああ、大丈夫、大したことじゃないよ。さっきの靖穂さんの質問がちょっと引っ掛かってるだけ、『モラクス』って名前どこかで聞いたなあって……後で調べてみようかな」

 

 「まあ、何か元ネタはあるんじゃないですかねえ。今まで見て来た敵もそんな感じでしょう? 幽霊だの鬼火だのゾンビだの……」


 稲葉さんが話に参加する。


 「でも、一番最初の『ゴートマン』は訊いたことない……よね?」


 スマホを操作していた靖穂が更に話に参加してくる。


 「どれもちゃんとした原典がある『悪霊』みたいだよ」


 そう言って彼女が見せるその画面には検索エンジンの『ゴートマン』検索結果が表示されている。そこにはアメリカの都市伝説がまとめられた記事やWikipediaなどのウェブ辞書に『ゴートマン』の内容が示されているものや、彼らが見た『ゴートマン』に似た画像が示されている。

 また、彼女が画面切り替えの操作を行い、『モラクス』の検索結果を示すと、トップに出ているのはゲーム関連のキャラクターだが、その下に『ソロモン72柱の悪魔』などと言われる『モラクス』の名、そして『伯爵』と『総帥』の称号を持つことなどが記されていた。

 重吾が呑気な声をだす。


 「へー、やっぱりちゃんと元ネタのある敵なのかー。まあゲームでもよくあるからなー」

 

 國山先生も納得した様子で話す。


 「ああ、やっぱり悪魔だったの。そう言うゲームよくやるから、それで見たのかな。納得したわ、ありがとう靖穂さん」


 「……いえ」

 

 靖穂は何かに引っかかりながらも、スマホの画面を閉じ、帰る支度を始めた。

 既に三本は帰る用意を済ませ、扉を開きいそいそと帰っていった。


 ――健? ……妙に不機嫌だな、あいつ……。反省会しようって言ったのに……。

 重吾は彼の様子を少し気にしながら、帰宅の用意を進める。

 その日の彼らは金田の活躍をたたえながら帰路についた。


     ―――――


 翌日、一行は問題なく迷宮ダンジョンを歩み、三本が地図を埋めながら、道中、一体や二体のゾンビや、幽霊に襲われつつも、難なく倒し、道を進んでいった。

 そんな中、重吾は歩きながら話始める。


 「……そういや、宝箱とかはないのかな。つきものだろ、こういう迷宮ダンジョンにはさ」


 稲葉さんが言う。


 「でも、もう結構探索したけど一回もそう言うのに出会ってないよ。……第一層だからかもしれないけど」


 「うーん。もう階段を見つけちゃったから、あんまり地図埋めする理由が見いだせないんだよ」


 國山先生が話に入る。


 「もし、街中と迷宮ダンジョンが繋がった時、後から来た人が困らないためにも作っておくのが理由になるでしょう?」

 

 「それもそうか。そん時は何か表彰があると良いよな、なあ健?」


 「……まあな、僕は半分自己満足でやってるがね。……そもそも街中とここが繋がることなんて本当にあり得るかわからないだろ」


 三本はそう言いながら地図を書き加えて行く。だが、何かに気づき、足を止める。

 一行もそれに応じて足を止め、戦闘態勢に入る。

 

 「……ゴートマン二体の他に何かいるのか? これは……蛇?」


 三本がそう言ったしばらく後、通路の奥から二体のゴートマンと地を這う6匹の蛇が近づいてくる。


 「おいおい、この蛇……毒を使うぞ!」


 ステータスを参照した重吾が、そう叫ぶ。

 蛇たちは素早く、血を這い、着実に一向に近づいてゆく。


 (続く)

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