第10話 屍と悪魔の輪舞

     ……………


 金田へ向けられる牙や手を、彼はその拳で受け止める。


 『バキバキィッ!』


 二体のゾンビの腕が拳の二振りでへし折れる。79、78のダメージ。だが、残り一体のゾンビにより金田は肩に噛み傷を負う。20のダメージ表示が為され、そのまま金田にとりつく。ゾンビが金田の首を絞めようと手を掛けるが、金田はそれを意に介さず、周囲にいる二体のゾンビの処理を先に行う。

 金田は目の前でもう一本の腕で攻撃を行う二体のゾンビに対して、その攻撃を、もう一体のゾンビにしがみつかれながらひらりと躱し、頭部を掴み。握る。

 10、15、20、25といったダメージ表示と共にギリギリと骨がきしむ音が鳴り響き、その次の瞬間には二体のゾンビの頭部が『パキョリ』とと音を立ててはじけ飛び、『クリティカル』の文字が金田の目に飛び込む。

 だが、その間も金田の首はゾンビの怪力によって絞められている。


 「グゥウウッ……」


 金田は呻り、膝をつく。2、3、1、と小さなダメージが二体のゾンビを倒した渦中も、そして現在も与えられている。

 重吾と稲葉さんは金田にとりつくゾンビに向け、駆ける。


 「修君!」


 「金田さん!」


 重吾は金田にとりつくゾンビの背に力を集中した一撃を入れる。『ブチッ』と腱が切れる音がして、ゾンビの右手がぐったりと力を失う。

 更に稲葉さんの頭部に対する二連撃によってゾンビが引きはがされる。

 ゾンビは合計130ものダメージを受けたが、その衝撃も意に介さず、即座に攻撃に転じ、稲葉さんへ手の伸ばす。


 『ガッ』

 

 稲葉さんの肩は捕まれ、その強力な握力によって彼女は30のダメージを受ける。

 だが次なる攻撃をするゾンビの拳が振るわれる前に、ゾンビの首は胴体から切り離される。『クリティカル』の文字が、重吾の瞳に映る。彼の勢いづいたチョップによってゾンビの首は吹き飛んだのだ。

 

 「南、大丈夫か!?」


 「う、うん……それより、金田さんは……」


 金田は首を鳴らしながら、立ち上がる。


 「ふーむ。流石に首絞めはちょっと効いたようだな……すまん、今度からはしがみつく奴を優先的に倒す」


 その姿を見て、少し後方にいる三本はつぶやく。


 「……化物かよ」


 そして、全員の目に『レベルアップ』の文字が映る。

 それに呼応するように、靖穂と國山先生、三本が何かに気づく。

 靖穂が金田に近づき、話す。

 

 「……金田先輩、ちょっといいですか」

 

 「……? 何だ、まあ、いいが……」


 靖穂は金田の前で祈るように手を結び、彼女がレベルアップ時に知った『ラテン語』の言葉を口づさみ、膨大な『聖書』に関する知識をなぞりながら、魔力を集中させ、『言葉の紐』を紡ぎあげる。


 「アヴェ、マリア、恵みに満ちた方、主はあなたとともにおられます。あなたは女のうちで祝福され、ご胎内の御子イエスも祝福されています。神の母聖マリア、わたしたち罪びとのために、今も、死を迎える時も、お祈りください。アーメン」

 

 DMダンジョンマスターそらんじたものと同じ言葉をするりと口にする。紡ぎ出された紐は金田にとりつき、彼の身体の隅々に渡っていく。

 すると金田のHPがぐんぐんと回復してゆく。


 重吾は驚き口を開く。


 「おお、遂に回復を覚えたのか!」


 「うん。これで少し長く活動できると思う……」


 ――でも、この『魔術』の仕組みって……。


 靖穂がそう考える中、三本が重吾に言う。


 「僕も魔術を覚えた。皆のMPに余裕もあるし、せっかくだからもう少し進んでもいいんじゃないか? 時間もそこまで経っていない。戻る時間を考慮しても余裕があるよ」


 「ああ、そうだな、皆もいいか?」


 各々は重吾のその言葉に頷く。國山先生はそれに加えて話し始める。


 「私も魔術を覚えたし……どうやら戦闘用らしいので使って知っておくのは大切ね。時間も私が時計で見ておくから、行きましょう」


     ―――――


 一行はHPを回復し、迷宮の通路を地図を書きつつ進んでいく。

 ふと、三本が何かに気づく。


 「……皆、この先……何か、強い力を感じる」


 そう言う三本は鳥肌を立て、その力の大きさを感じている。その物言いに全員が警戒を覚える。

 國山先生は言う。


 「大丈夫なの……? 今、HPは全員大丈夫とは言え、MPが……」


 重吾は答える。


 「……いざとなれば、戻りましょう……もし、この先に、前にDMダンジョンマスターが言った『ボス』が居るのだとしたら、今どれくらい戦力差があるか知っておくのは大事……そうだろ、靖穂?」


 「うん。目指す指標は必要だと思う。今それが得られるのは」


 「じゃあ……気を付けて行こうか……」


 張りつめた気配の中、一行は進む。通路の先は開けたホールが広がっており、上に続く階段がある。

 ホールは血に濡れた様な染みがいたるところについており、そのホールの中心、意味深長な魔法陣のような文様が白い線で引かれた場所に、一体の『悪霊』が立っていた。それは牡牛の頭部を持ち、人間の身体をした化物であり、腕を組み、鼻を鳴らしながら重吾たちを睨みつけている。宝石で彩られた宝飾品を纏い、王冠を被る姿は、まさに『王』といった風体である。

 その『悪霊』は戦いの構えをとり始める……。


 (続く)

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