第9話 ダンジョン・イン・ザ・リビングデッド

     ……………


  「うおおおおおおおおお!?」


 足首を掴まれた金田は叫ぶ。彼の足元から三体の『動く死体』が現れる。床は石畳ながら、その死体は明らかに床を透過して現れている。その死体たちは呻き声をあげ、金田にしがみついている。

 他にも三体、床から死体が這い上がり、一行の行く手を阻む。

 靖穂や三本は冷静に脳内でステータス参照オープンを呟き、死体たちのステータスを確認する。

 

 ゾンビ HP300/300

 ・戦闘点BATTLE POINT:60

 ・知力点INTELLIGENCE POINT:0

 ・感知点SENSE POINT:10

 ・予知点PRECOGNITION POINT:0

 ・技能点TECHNIC POINT:10


 ――HP、戦闘点が異様に高い。他はゼロや10……攻撃を避けられることは有り得ないけれど、一撃が重いことが予想できる……!

 靖穂は分析しつつ指示を行う。


 「皆、金田先輩にとりついているゾンビからやって! 攻撃には気を付けて、一撃が重い!」


 重吾、稲葉さんの二人は金田の左右にしがみつくゾンビに向け移動。

 捕まった金田は足首を強い力で握られ、5のダメージを受ける。そして、左右のゾンビが拳を振るう。だが、それよりも早く、金田は左右の拳で双方のゾンビの頭部に振り下ろす。80、79のダメージが表示される。

 だが、ゾンビのしがみつく力は変化せず、双方の拳の勢いは衰えることなく金田に振るわれる。10、11のダメージ。

 

 次なる攻撃を用意するゾンビたちだったが、重吾、稲葉さんが攻撃に入る。

 稲葉さんは右足を軸とした回し蹴りを走る勢いそのままに繰り出す。速度の乗った重い一撃がゾンビの後頭部に強烈な衝撃を与える。60のダメージ!

 重吾はもう片方のゾンビに攻撃を敢行する。

 その刹那、重吾は不思議な感覚を得る。


 ――こいつの背中……脆い点がある。この一点に……鋭い一撃を入れれば……!


 重吾は拳の先、ゾンビに触れる一点に力を集中させる感覚を覚える。彼はそのまま、その拳をゾンビの背、骨の見える穴がある一点にフックで当てる。

 

 『バキバキバキッ』


 ゾンビの背から胸にかけ、そのフックで貫かれ、そのままゾンビの身体が音を立てて崩れ、砂の様になっていく。『クリティカル』の文字が現れる。


 「おおお!? おれすげええっ!?」


 重吾が自らの行動に驚く中、一体分の重みのなくなった金田はしがみつく二体のゾンビごと、ブリッジからのバク転により振りほどく。そしてそのままの勢いで地面から抜け出たゾンビの顎にアッパーを入れる。ゾンビは仰け反り、ばたりと倒れる。95のダメージ表記が現れた。

 

 戦闘点の高い三人がゾンビを効率的に攻撃する中、國山先生はゾンビたちの移動など全体を見る中で的確にその行動を予想し、全てを回避していく。


 ――ゾンビというには動きが機敏! 予測できなくちゃ私もダメージを受けていた……次、このゾンビたちは……。!? 


 「重吾君! 危ない!」


 「何ッ!?」


 その一瞬後、國山先生の周囲に居たゾンビの一匹が壁を蹴り、天井へ跳躍する。それはゾンビとは思えない俊敏でダイナミックな動きであり、稲葉さんや金田は驚く。重吾は向かってくるゾンビに対応しようとそれに注視するが、金田に振りほどかれたゾンビが、驚異的な身体能力により、壁へ飛び、壁にしがみついて、這うことで重吾に向かっていった!

 ゾンビは避けようとする重吾を捕らえ、向かってくるゾンビは天井を蹴り、真っ直ぐ重吾へと飛び掛かる。

 

 三本は丁度その飛び掛かる軌道の間に飛び込む。その彼の眼鏡の奥の眼孔には、あるモノが見えていた。


 ――あの『呪い』と同じ……文字の紐……! ゾンビの背から零れ出ている……?


 三本は一瞬、その紐に触れる。その一瞬のうち、多くの聞き知らない言語が脳裏に流れる。だが、彼は、それに対して、自然と力を込めて行く。彼の身体から魔力が流れ出し、紐の一部を切り刻んでゆく。


 『バラバラバラバラ……』


 紐をゾンビはそのまま音を立てて崩れ去り、重吾の前にはすでに跡形もなく、砂塵として消え去っていった。

 重吾は驚く。


 「こ……れは!?」


 「解呪……てトコか。アンデット系の敵はこうすりゃ倒せるのか……」


 三本がそう呟く中、重吾は背後にしがみつくゾンビを背負い投げして振りほどく。30のダメージが表示されるが、三本によって即座に塵にされる。


 「これで少しは……いや、こいつ等以外にも動きが早い……!」


 國山先生や靖穂はゾンビたちの鋭敏な殴りや蹴りを予知により何とか躱して距離を取っているが、攻撃する隙を見出せずにいた。更に、稲葉さんや金田に囲まれる残り一体のゾンビは稲葉さんの追撃を避け、天井へしがみつき、國山先生の方向へと向かう。

 靖穂が先生の方を案じる。

 

 ――このままでは私や先生がジリ貧。けど奴らの速さには……!


 「うおおおおおおおおおおおっ!」


 金田が叫び、地面を殴る。殴った地面は一部が割れ、彼はその割れた破片を持ち上げて、ものすごい勢いで投げる。

 脆くなった破片は投げる勢いにより無数の礫として三体のゾンビに降り注ぐ。


 10、15、11、10、13……と幾つものダメージがゾンビたちそれぞれに注ぐ。國山先生や靖穂はその全てを事前に悟り避けていた。

 ゾンビたちの標的は、金田へと向かい、奴らは一斉に金田へと向かっていく。

 金田は向かってくるゾンビたちに咆哮する。 


 「かかってこいやぁぁっ!」


 ゾンビたちの突撃が金田のもとへ集中する。その牙や手が彼のもとへ伸びてゆく。


 (続く)

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