第8話 タンク!

     ……………


 鬼火四体の自爆によって周囲には煙が上がり、舞い上がった塵がパラパラと落ちている。國山先生は叫ぶ。


 「伏見君!」


 煙の中から重吾の声がする。


 「……おい!」


 「兄貴!?」


 「伏見君!?」


 煙が晴れてゆく。

 その中心には煙に巻かれ、大の字で床に倒れる金田の姿と、爆発の中心から外れた場所で少々のダメージを負った重吾の姿があった。


 「修君が巴投げでおれを爆発の中心から投げ出したんだ」


 立ち上がる重吾は倒れる金田に近づく。金田は目を瞑ったまま、動かない。


 「くそっ……おれの代わりに……」


 重吾がそう言いながら、金田の顔を除くと、彼の目が開き、直ぐにむくりと起き上がる。


 「はぁ……30ダメージとか出ていたが……どっと疲れるだけで痛みはねえな……なるほど、確かにこりゃいいや」


 重吾たちは驚く。彼らは金田のステータスを見ている。彼は瀕死ですらないのだ。


  金田修 Lv3 HP70/100 MP11/23

 ・戦闘点BATTLE POINT:30

 ・知力点INTELLIGENCE POINT :9

 ・魔力点MAGIC POINT :23

 ・感知点SENSE POINT:10

 ・予知点PRECOGNITION POINT:12

 ・技能点TECHNIC POINT:25


 驚異的なHPと高めの戦闘点、技能点を持っており、防御能力の高さがうかがえる。もし、彼以外の、重吾などがあの自爆技を受けていれば取り返しのつかないこととなっていただろう。

 靖穂は他の面々のレベルアップしたステータスを見る。


  三本健 Lv3 HP60/60 MP23/30

 ・戦闘点BATTLE POINT:12

 ・知力点INTELLIGENCE POINT :28

 ・魔力点MAGIC POINT :30

 ・感知点SENSE POINT:30

 ・予知点PRECOGNITION POINT:18

 ・技能点TECHNIC POINT:19


   伏見重吾 Lv3 HP63/70 MP16/26

 ・戦闘点BATTLE POINT:21

 ・知力点INTELLIGENCE POINT :18

 ・魔力点MAGIC POINT :26

 ・感知点SENSE POINT:20

 ・予知点PRECOGNITION POINT:23

 ・技能点TECHNIC POINT:25


  稲葉南 Lv3 HP70/70 MP14/20

 ・戦闘点BATTLE POINT:26

 ・知力点INTELLIGENCE POINT :20

 ・魔力点MAGIC POINT :20

 ・感知点SENSE POINT:16

 ・予知点PRECOGNITION POINT:24

 ・技能点TECHNIC POINT:21


  伏見靖穂 Lv3 HP50/50 MP30/31

 ・戦闘点BATTLE POINT:15

 ・知力点INTELLIGENCE POINT :27

 ・魔力点MAGIC POINT :31

 ・感知点SENSE POINT:26

 ・予知点PRECOGNITION POINT:20

 ・技能点TECHNIC POINT:20


  國山千秋 Lv3 HP60/60 MP27/28

 ・戦闘点BATTLE POINT:17

 ・知力点INTELLIGENCE POINT :25

 ・魔力点MAGIC POINT :28

 ・感知点SENSE POINT:27

 ・予知点PRECOGNITION POINT:30

 ・技能点TECHNIC POINT:20


 ――HPの変化がない……HPは固定という事……? 他の能力値が上がることでダメージの数値がある程度固定されるという事? ゲームにしては妙なバランス調整ね。いや、そんなことを言ったら特殊なステータスにMPばかり減り続ける迷宮ダンジョン、敵の名前が『悪霊』と妙なこと続き。あのDMダンジョンマスターも怪しいし……。いや、今はそのことを考えてるときじゃない。

 靖穂は思考を巡らせつつ、周囲を見回す。

 

 「DMダンジョンマスター、来ないね」


 重吾は靖穂のその言葉に返す。


 「チュートリアルキャラなのかな? いないんじゃ仕方ないから少し探索するか……」

 

 そう言って重吾が振り返ると、そこにはDMダンジョンマスターが翼を広げ空中に佇んでいた。


 「おわっ! いたのかよ!」


 「いえ、今来ました。少々用意があったので……ああ、それと、少ししゃがんでいた方がいいですよ。


 『え?』


 全員が困惑する中、地面が揺れ始める。その揺れはやがて地響きを伴うすさまじい地面の動きとなり、壁や床、天井が滑るように動き出す。

 金田が叫ぶ。


 「どうなってんだこりゃあ!?」


 「ちょっとしたリフォームです。『エントランス』というのは大事ですからね」


 滑り動く床、天井、壁、そして床の一部から柱が天井に伸び、壁はどんどん広がってゆき、単なる通路だった場所は何時の間にか広々としたホールへと変化していた。

 天井から中央に注ぐ光で、ホールは明るく、重吾たちが入って来た『門』には装飾が為され、円状の壁には鮮やかな天空を模した壁画が描かれ、天井にも、大聖堂が如き天井画が描かれ、生えてきた柱はどれも大理石のモノであった。

 先程までレンガ造りの質素な空間であった場所はものの数十秒の間に神聖で厳かな空間へと変貌したのだ。


 「うん、我らが迷宮ダンジョンのエントランスに相応しいモノになりましたね……。ああ、迷宮へはあちらの門から入れます。私はいつもこの場所に居りますので斃れた方がいる場合はこちらまでお戻りください」


 重吾たちは今見た奇跡の光景に唖然としながら、その説明に首肯した。

 國山先生は天井画を見て感嘆する。


 「すごい……。画集で見たものに似ているけれど、意匠は違う……生で見るとこんなに圧巻されるものなのね……」


 天使と数々の人々が雲の上に佇み躍動する姿が描かれた天井画は精緻かつ美的な色彩と描画が行われている。

 壁画には塔が作り上げられていく様子や雷に打たれる様子などが描かれている。

 重吾たちはそれらに目を奪われていた。

 そんな姿を見ながらDMダンジョンマスターは微笑む。

 

 一行は、暫らくエントランスホールの絵を眺めた後、DMダンジョンマスターが言った通り、迷宮ダンジョンに通じる通路へと足を踏み入れていく。

 三本は持ってきた方眼紙に通路を定期的にマッピングしながら進んでいく。

 重吾がそれを見て言う。

 

 「オートマッピングに頼る俺にはできない芸当だ」


 「こういう手間を楽しむのもゲームの醍醐味だって言ってるだろ」


 そう言う三本が足を止める。

 

 「何かいる」


 稲葉さんが叫ぶ。


 「地面だよっ!」


 その言葉の後、地面が盛り上がり、何本もの腕が現れ、金田の足首が掴まれる。

 土の中から現れたのは、顔の腐り溶けた、骨を見せる、動く死体であった。


 (続く)

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