第3話 ダンジョンマスター現る
……………
靖穂は目の前の翼を持った浮遊する男におずおずと話しかける。
「ダンジョン……マスター……あなたがここを管理しているの?」
ダンジョンマスターを名乗る男は彼女の方へ向き、微笑みながら穏やかに答える。彼の声は不思議と安心感を覚えさせる響きがあった。
「はい、その通りでございます。この場所は私の管轄……とはいえ、私もあなた達を待ちわびていたのです。この場所を支配する『悪しき巨人』、それを打ち倒す『冒険者』の方を」
靖穂は怪訝な表情で訊く。
「『悪しき巨人』? あなたの方が強いのに何故、私たちにそれを頼むんですか?」
「それについてご説明いたしますので、まずは皆さんの傷を治しましょうか。死亡状態の方もね」
ダンジョンマスターはそう言うと手を祈るように結び、呪文を唱える。
「アヴェ、マリア、恵みに満ちた方、主はあなたとともにおられます。あなたは女のうちで祝福され、ご胎内の御子イエスも祝福されています。神の母聖マリア、わたしたち罪びとのために、今も、死を迎える時も、お祈りください。アーメン」
周囲が光に包まれ、先程ダメージを負った靖穂、重吾、三本はそれぞれ目の前に光り輝く文字で999と表示され、三本は身体にあったすべての傷が消え去った。
「……ン……あれ、僕は……あの山羊男……うわっ! 何だ、お、お前!」
むくりと三本は起き上がり、ダンジョンマスターをみて驚いて叫ぶ。同じように全員がおどろきを見せどよめく中、ダンジョンマスターは落ち着き払った様子で語る。
「では改めて名乗りを……私は『
ダンジョンマスターは先程雷を当てた山羊角の男を手で指し示す。皆がそれを見るとダンジョンマスターは一言『ステータスオープン』と言う。
その言葉に呼応し山羊角の男の頭上に、文字と数値情報が載ったものが現れる。
ゴートマン HP1/120 麻痺
・
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魔術『火球』、『爆発』を使用する。
「この
そう彼は説明するとゴートマンに手をかざし、その掌から雷を放った。
それがゴートマンに当たると、ゴートマンは身じろいだ後、息絶え、その死体は煙のようにふわりと消えた。
「……と、このように、『悪霊』たちは生物ではない、字義通り『霊』なのです。死した彼らの死体は残りません。ですがこの迷宮の最上階第七層に巣食う『巨人』は『生き物』ですので私は殺すことが許されていないのです。そこで、あなた達、異界の冒険者たちに巨人の討伐をお願いしたいのです」
重吾が一言訊こうとする。
「その、許されていないというのは――」
だが、國山先生が間に入る。
「すみませんが、その申し出には賛同できません。この子たちは学校の生徒です。このような危険な場所での活動は責任者として認められません」
先生は拳を握り締めて震えを止めていた。この不可解な場所で翼の生えた強力な力を操る男に対して異を唱えるのはあまりにも勇気を必要とする行為だった。
だが、ダンジョンマスターは微笑み、賞賛の言葉と共に柔和な態度で話す。
「勇気ある人よ。その言葉には頷ける点も多いですが、もう少し私の説明を聞けばこの申し出も受け入れる余地ができるでしょう。この
「危険ではない……?」
「ええ、この
「……でも、私たちが『巨人』とやらを倒す理由は……」
「それはもう一つ『あなた達の世界を救うことになる』と言う事に理由があります。この
「私たちの世界へ!?」
「このままいけば、あなた達の世界は更に浸食を受け、あなた達の学校を中心に街を、市を、果ては国を全てのみ込むでしょう……さらには悪霊たちが、この世界の垣根を越えて飛び出すやもしれません……混乱は必至です、今のあなた達のような、いや、それ以上の、ね」
ダンジョンマスターはニッコリと微笑み、國山先生を見る。敵意のない笑みは強い説得力を以て、國山先生に訴えかけるように映る。
(続く)
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