出世した後に。

グイ・ネクスト

第1話 薬師であるオレには

薬師であるオレ、イルミには三分以内にやらなければならないことがあった。今すぐ、妹、アルカの熱を下げる薬を調合する事だ。外には冒険者ヴァルさんを待たせてある。落ち着け、順番通りやれ。試験に比べれば簡単だろ?師匠に教えてもらった通りにやるんだ。オレは試験管を順番に混ぜ合わせ、解熱ポーションを作り出した。試験管の口をゴムで閉じて、マジックバックに入れてから玄関へ。閉店の札を貼り、チェーンをしてロックする。「おま、お待たせしました。」と、ヴァルさんに頭を下げる。「いいって。それじゃ、ついて来てくれ」と、ヴァルさんの後を追う。

行き先は貧民街。アルカの居場所は正直、目を瞑っても行ける。当たり前だ。自分もそこに一緒にいたのだから。それでも形だけ、ヴァルさんを追い抜かないように、気をつけて後を追って行く。頼む。そう、祈らずにはいられない。今までずっと放置して来たことが悔やまれる。オレはホントに大馬鹿野郎だ。自分が何を手にしたかったのか。やっと気づくなんて。ホントに大馬鹿野郎だ。こんなオレはどうすれば救われるんだろう?こんな悪人でしか無い自分は?誰が救ってくれるんだろう。

黒髪の男、ヴァルさんが立ち止まっている。

「あ、あの?」と、オレは声をかける。

「せっかく金髪に生まれて来たのに、そんなしけたツラじゃ台無しだぜ。なあ、イルミ。お前さ、大地に流れる大いなる何かを信じるかい?」

「いや、あの。妹のところへ」

「大いなる何かを信じるかい?」

「今でも信じていますよ。貧民街から薬師に育ててくれた師匠にも教えてもらいましたから。でも、今は急いでくださいよ!妹が」

「あと数分で着くだろ。歩いてもな。へっへ。信じているなら、唱えな。【導きたまえ】」

「み、導きたまえ?」

「ああ、そうだ。じゃあ、行くぜ」と、ヴァルさんは走り出した。オレはよく分からないまま後をついていく。「導きたまえ」・・・なんだ?これは・・・「導きたまえ」気づくと何度も口にしている。薄汚れたテントが目に入る。テントの中にはオレと同じ金髪の妹がいた。「お兄ちゃん」と、アルカは呟いている。

オレは手を握った。それからマジックバックから解熱ポーションを取り出して、ゴムを外して口から注ぐ。喉がごくんと動くところを確認してからオレはアルカを背中に背負った。「連れて帰るのか?」と、ヴァルさんは聞いてくる。

「きっとクビでしょうね。せっかく店を任されていましたけど。その・・・そんなものはどうでもいいんです。また露店から始めます。オレは・・・妹の笑顔が見たかったんです。・・・導きたまえ」

「はっは。冒険者ギルドは薬師を探していた。どうだ?来ないか、ギルドに」

「いいんですか?オレなんかが。妹というコブ付きですよ」

「これも大いなる何かからの導きだよ。解熱ポーションはギルドからの給金から支払いな。それぐらいは向こうも待ってくれるだろ」

「ええ、そうですね。そうします。導きたまえ・・・不思議なんです。唱える都度、心が落ち着きます」

「だろ?」と、ヴァルさんは笑った。オレも吊られて笑ってしまう。


完。

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