初カノの家がトラップハウスだった場合の対処法
冬春夏秋(とはるなつき)
『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』
俺の恋人が暮らす一戸建て住宅の表札には彼女の苗字である『
庭が奥に見える門には『Lasciate ogne speranza, voi ch’intrate 』と書いてあった。
ラテン語ですか? ここは設定上はニッポンなので日本語表記して欲しかった。
と、後になって内見に言ったところ「勧誘お断りします、みたいなものだよ~」とヘラヘラ笑いながら流された。それで通ると思ったのかコイツ。
オチから話そう。何はともあれ俺は内見の家から生還した。お家デート
付き合ってるヤツのノロケ話とかウザったいよな。自分が独り身だとなおさら。わかるよ。付き合う前の俺も同じ感想だったし。でも相手ができたらそういう話をしたがるもんなんだよ人間って。聞く側から聞かせる側になったっていうのは、まあ先駆者の特権だと思って甘く見て欲しい。
庭のことについては特段語る要素がないので
「ど、どうぞ」
「お、おじゃまします……」
そんな初々しいやり取りの後、俺は彼女の家に靴を脱いで入った。用意してくれたスリッパを履く。ここまでで問題はなかった。
――がちゃり、と。俺の背後で玄関の鍵が自動的にかかったことに疑問を覚えなかった時点で、俺は内見初心者だったのだ。
向かって右。二階へと続く階段。
向かって左。リビングが見える、開かれたドア。
内見の後ろに伸びる廊下の奥はトイレと風呂があるのだろう。一般的な、そこそこ裕福なご家庭の、一戸建て住宅と言って良いと思う。
逸般的だったのは、緊張を
俺の! きのせいで! なければ!
「内見……」
ズズッ
「ん~?」
ズズッ
「お前んちの天井……なんかこう、迫るモノがあるよな」
「なにそれウケる~」
どうする。どうすればいい。左右を見渡す。
「あ、好きにしてていいよ~。わたし飲み物用意するね」
違うんだ内見。カノジョの部屋に行くかリビングに行くかとかそういう悩みじゃないんだ。
ズン――!
受け止める……無事で!? 出来る!?
「おっ俺も手伝うよ!」
リビングに消える内見を追う。
「え~、いいのに。じゃあ、えっと。何飲もっか」
ぱたん、とドアが閉まる。
廊下がどうなっているか、その時の俺は確認できなかった。
初カノの家がトラップハウスだった場合の対処法 冬春夏秋(とはるなつき) @natsukitoharu
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