第30話 最強の敵、との戦い

走っている途中で、アスキーの意識がまだはっきりしないまでも回復する。

瘴気はそのままだが、クミが霧の調整をしてアスキーの負担を減らしてくれているらしい。


「大丈夫か」


「うん、これくらいならおとりにはなれると思うミャ……」


「馬鹿、紙耐久のお前にそんなことさせるわけないだろ」


そんな会話で少しだけ心が軽くなりながら、駆け込む戦場。

そこからは激しく何かと何かが激突する音が絶え間なく聞こえてきていた。

中に入るとひらける視界、そこは最初に俺が改築した部屋だった。

しかし悲しいことに、俺のリフォームの二倍、三倍の広さになっている。

ベッドに至ってはボロボロと崩れ落ちていた。


「クミが悲しみそうだな……」


そう思いながら、アスキーを部屋の端におろす。

敵はレビアの猛攻をさばくのに夢中で、俺たちの存在には気づいていないようだ。

攻撃をし続けるレビアには少しの余裕がありそうで、これ幸いと、観察する。

見て理解する。

敵の異常な対応力と、その鎧の防御力を。

やつは、すべての攻撃を予知したかのように、体の鎧でおおわれた部分でガードしている。何であんなに攻撃を正確に読むことが出来る?

考えても俺には分からなかった。

もともと、俺は深く思考して戦闘するタイプじゃないし。


力押し。俺に出来ることをやるしかないな!

レビアの攻撃を無理な態勢で受けた敵に、技を打ち込む。


「風月刃!」


全力の力と、殺気を込めた一撃。

けれど、それを予知していたかのように、敵はこちらを振り向いてガードする。


「ほお、お仲間ですか。いいですよ。私は二対一でも一向にかまいません」


余裕綽々なソイツ。

俺とレビアは目くばせをする。

一瞬で、心が通じる。今度は俺の猛攻の番だ。

炎纏いをしたまま幻影を作り出す。いくつかの幻影には風月刃を撃たせ、残りは炎纏いのまま特攻。

すかさずそこにレビアの水魔法。

……数で押せばと思ったが、それも効かないようだ。

的確に、俺が主力として力を込めた幻影を中心に対処してくる。


「ふふ、この程度ですか。誰が本命かなんて、私にははっきりとわかりますよ」


そう言いながらまた、幻影の攻撃をいなす。


「だんだん、そちらのお嬢さんの攻撃頻度が落ちていますね。猛攻を仕掛けたせいで疲れちゃいましたかぁ?」


再びの目くばせ。

OK、レビア。

仕掛けよう。


「レビア、行くぞ」


「ええ!」



掛け声で二人で特攻する。


「何度やっても同じことですよ、あなたたちの攻撃の来る場所なんて殺気で手に取るようにわかりますから!」


絶対に仕留めてやるぞという気概を、そして俺たちの怒りをもって。




俺たちの全力の一撃は




――――見事に敵にいなされる。







けれどもそれでいいんだ。



「アサシンエンド」


敵の首が飛ぶ。

そして飛んだ直後に、俺たちでも身震いしてしまうほどの殺気が、小さな体からあふれ出す。

敵の後ろに立っているのは、俺たちの信頼すべきルームメイト。


――アスキーだった。

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