第28話 最強の俺、と最強の彼女の戦い
距離を詰める。
相手は水魔法と回復魔法の使い手。遠距離戦は分が悪い。
「風月刃!!!」
近距離で放つ風の刃。フェアに戦うためにも全力で放つ、が、狙いは足だ。
しかし俺の風の刃はレビアの体の直前で何か固いものに当たって霧散してしまう。
「正々堂々? 聞いて呆れるわ。急所外してきてるじゃない。いい戦いがしたいなら、もっと本気になってもらわないと」
一種の魔法を極めるだけでも天才と言われる世界。
そんな中で二種の魔法でも飽き足らず、彼女はバリアの魔法まで使えるらしい。
しかも俺の全力を阻むレベルで。
「はっ、一瞬で決めちゃ楽しくないかと思っただけだよ」
俺はそう言って挑発する。
そして、レビアの周囲を超スピードでぐるぐると回り、自分の幻影をいくつも作り出していく。
レビアの目を見ると完全に追えていない。
よし、これなら目があるかもしれない。
「火炎幕!」
俺と、そして見えている影のうちのいくつかから、炎の魔法が飛び出していく。
バリアだけでは防ぎぎれないこの熱波、女の子には酷だがこれで黒焦げにして動きを止めてやる。
どうだ、やったか……?
「だから、何のお遊びをしてるのかって聞いてるの」
土煙がさると、平気そうな顔のレビアがそこには立っていた。
頭をフルに回転させ、防御した方法を思考する。
あがった周囲の湿度、そして彼女自身の濡れた衣服から察する。
彼女はバリアと同時に水魔法を展開し、俺の熱を吸い取ったのだ。
「遊んでなんかないぜ。そっちだって、何の攻撃もしてきてないじゃないか」
軽口をたたくと、レビアはため息をついた。
「準備はしてるわよ」
指をパチンと鳴らす。
俺は身の危険を感じて咄嗟に体を動かそうとする――が、足が動かない!
見ると足が氷に 覆われている。
あがった湿度、つまり……
「
更なる攻撃を受ける前に、体に炎を
転がって移動する。
俺の元いた位置には巨大な氷のつららが刺さっていた。
どうやら、レビアも本気でやってくれてるようだ。
胸が高揚してくる。
ダンジョンの壁を壊しているときのようなドキドキ感だった。
いや、うん……殺し合いじゃなくてそれでドキドキ味わえるならそっちの方がいいけどさ!!
でも、俺はこの時を楽しめていた。彼女に言った言葉がまさか現実になるなんて。
初めて対等に真っ向から戦える相手との激闘。
俺は戦いを通して、自分のスキルや技術があがっていく体験を初めてしていた。
あれが駄目なら、この手は。
くそっ、奴はこれを利用して次の攻撃に繋げていくのか……。
学び、成長し、糧とする。
俺たちの戦いは数時間にも及び、魔力も体力もつきかけ、太陽も沈みかけたころ
――それは唐突に訪れた。
鳴り響く鐘と太鼓。
聖なる一騎討ちの邪魔をする音に、俺とレビアは戦闘を停止させる。
「なんだ?」
俺たちの戦いの一時休戦を確認してから、一頭の馬がこちらに向けて猛スピードで飛び出してくる。
遠くからでもわかる、あの独特の耳の形のある鎧と声。アスキーだ。
「戦闘は一時休止。人とそれに並ぶ亜人族にはこれから団結の必要がある。この世界にヒト族の敵魔王が降臨した。そして魔王軍の幹部が二国の近くまで来ている。団結してこれを討伐せねばならない!」
いつもの語尾が封印されている。それは決められた文章なのだろう。
よく通る声で俺たち二人に向けて叫ぶアスキー。
しかしそれだけで言葉は終わらない。
近くまで来て馬をするりと降りたアスキーは今度は小さい声で俺たち二人に伝えてくる。
「魔王の幹部がいる場所はおそらく、私達のマイホーム。あのダンジョン地下だミャ。マッピング仲間の何人もがダンジョンから異常な瘴気を感じるようになった、って報告をあげている。私たちの家へ、さあ、急ぐミャ!」
俺は直前まで命のやり取りをしていたレビアと目くばせする。
気持ちが通じる。
俺とレビアは、くるりと振り返って自国の軍に向けて走り出す。
合流は、ダンジョン下層。
我が家だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます