国というもの

第23話 最強の俺、と一人がかけた夜

家に戻ると、あれだけ楽しそうに集めていた採取物の整理もよそにアスキーは街に戻っていった。

レビアは彼女の様子を見て不思議に思ったのか、俺に尋ねてくる。


「ねえ、向こうでなにかあったの?」


その質問にどう答えようかと頭を悩ませる。

彼女は敵国の人間。

でも、俺と同じ戦争嫌いで、それが原因で国を追い出されてる。

そこまで考えて俺の気持ちは話す方へと傾く。


「実はな」


サウ王国ダンジョン内での一部始終を話す。

俺の話を聞くと、レビアは


「そう……」


と言って黙り込んでしまった。

息苦しい沈黙。


「……内通者みたいなことをした、俺たちのことを責めるか?」


唇を噛みながら俺がそう聞くと、レビアは小さく首を振った。


「いいえ。知らないままではおそらくこの国の人間が大量にひき殺されていくだけ。知らせて正解だと思うわ」


癒し手である彼女らしい言葉。

けれど、こっちの国が準備するってことは、よりレビアの国の兵も反撃を受けて命を失うということだ。

どちらに転んでも悲しみしかない。

そこから出てくる気持ちはたった一つ。


「……なんで戦争なんかするんだろうな」


俺の言葉を聞いたレビアは、悲し気に笑い。


「そこに人がいるから、かしらね。あーもうこんな人類魔王にでも滅ぼされちゃえばいいのに」


「滅ぼされる前に、さすがの人類も魔王とか来たら団結するんじゃね?」


「かもね」


再び俺たちの間に沈黙が広がった。

昨日までの楽しい時間が幻のようにも思えてくる。

アスキーは夕食の時間になっても帰ってこなかった。

俺たちはアスキーが昨晩作っていたウサギ肉のシチューを温めて腹を満たす。

あんなに美味しいと思っていたアスキーの料理も、これから戦争があるという事実の上で食べると味が感じられない気がする。

嫌だな。

街を出ても、ダンジョンのこんな奥深くまで、人と人との争いが追ってくるなんて。




――次の日の朝。

二人で干し肉のサンドイッチをかじっていると、アスキーが帰ってきた。


「昨夜は戻れなくてごめんニャ! 悪いんだけど、ルード君、元首様の呼び出しなんだニャ。昨日の話だと思うミャア」


そう大声で言ってからはっとして口元を抑える。

ここにレビアという敵国の人間がいることを思い出したのだ。

さっと緊張が走り、武器に手をかけるアスキーを俺がいさめる。


「レビアにはもう全部話した。彼女は戦争反対派だし、俺たちの行動を認めてくれてる。それにアスキー。いくらお前でもレビアに正面切って挑んだら勝てないと思うから、武器から手を離せ」


俺の言葉で、アスキーの殺気が引く。

ほっとしたのもつかの間、レビアの胸元が光り出し、部屋の中が美しい光で満たされる。彼女は首元の鎖を引っ張り服の中から光るものを取り出した。

あの日、風呂場で覗いてしまったときに見たあの宝石が光り輝いているようだ。


「あー、うんそっか。そうだよね。私も呼び出しみたい。これが来たってことはうちの国本気なのね」


「それは何ニャ?」


アスキーが尋ねると、レビアは苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「最高神官からの拒否権なしの招集命令。これが光ったら絶対に招集に応じなければならない。けれど、一人の高位神官に対してこの権利を行使できるのは一度のみ。って言えば、どういうことかわかるよね」


息をのむ。

最強の俺と同等レベルに強いレビアを、たった一度の切り札を使ってまで招集するってことは、本当の本当に敵国は全精力を傾けてこちらをつぶす気だ。

レビアは宝石を服の中にしまいながら言う。


「ねえ、お互いに一つだけ約束しましょ。どんな拷問を受けてもこの場所のことはしゃべらないこと。この道を使ったら相手国の奥深くに進軍できちゃう。どちらかが圧倒的有利になる……とともに私たちのおうちが踏み荒らされる。そんなの許せない、と思わない?」


レビアの言葉に俺はうなずく。


「今それを俺も言おうと思ってた。アスキー、お前この場所のこと、内緒で報告したんだよな?」


「もちろん、どこでその情報を得たかは言えニャいって今までの信頼と実績で押し切ったミャ。まだ1日だけど、ボクもこの素敵な職場を失いたくないからミャ。それに、まだサウ王国のダンジョンのマッピング終わってないしミャ」


三人で視線を交わし合う。

必ず生きてここに戻ると誓って。

そんな俺たちを包み込むようにクミがツルを伸ばしてくる。


「私はここで皆さんの帰りをずっとずっとお待ちしてますからね」


「必ず戻ってくる」


クミに触れながら、それぞれが約束する。


さあ、出発だ。

気の進まない戦へと。

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