第24話 最強の俺、謁見する
「面を上げよ。ルード、よく来てくれた。そなたの助力を感謝するぞ」
豪奢な机の向こう側でそう言って手を開いて歓迎の意を示す元首。
端から力を貸すと決めてかかられたことに、心の中で舌打ちをする。
これだから戦争と、上に立ってそれを主導する人間は嫌いなんだ。
誰が戦争に助力なんてするかよ。
ただ戦争だってだけでも嫌なのに、レビアのいるであろう軍と戦うなんて。
馬鹿らしいにもほどがある。
「勿体なきお言葉」
しかしそんな気持ちは心の奥底にしまい込む。
交渉の基本は落ち着くこと、だ。
俺はそもそも国に縛られない冒険者。貴族や国の中枢との強いかかわりがあるわけでもなく、従わなければいけない義理は本来ない。
その事実が俺を冷静に保ってくれる。
「さて、そなたも忙しい身の上であろうから単刀直入に言う。今回頼みたいのは、サウ王国が新たに開発した魔動装置の破壊だ」
「魔動装置?」
思いがけない言葉が出てきて、俺はそのままそっくり元首の言葉を繰り返す。
なんだそれは、そんなの聞いたこともないぞ。
「我がサウ王国とウエス国は長年国境で戦争と言いつつも小競り合いを行ってきただけだった。しかし今回そのサウ王国が、冒険者にも召集をかけるほどの大戦に踏み切ったきっかけはおそらくその存在だ」
元首は言いながら、机の上に何かの図面とバツ印のついた地図を広げる。
「この魔動装置が動いてしまえば、いくらわが軍が精鋭と言えどその力に推し負けてしまうだろう。だから、そなたにはこれを破壊してもらいたい」
「秘密裏に、ということですが?」
そう言う話ならもっと適任がいるだろう。
俺はアスキーのことを考えながら問いかける。
その言葉に元首は声を上げて笑った。
「秘密裏に動く仕事をルード、そなたに依頼すると思うかね? 街の破壊神くん」
その言葉に自分の顔がかっと赤くなるのを感じた。
どうやら俺の悪癖は元首にまで届くほどに知れ渡っているらしい。もう気軽に街を歩けないじゃないか。
「どうかね?」
俺の顔をじっと見つめてくる元首。
ふう、と大きく息を吐き出した。赤面のせいでペースが乱されている。
落ち着け。俺。
ちょっとからかわれただけで頭に血を昇らせちゃいけない。
冷静に依頼を見極めろ。
魔動装置の破壊によって、生まれる影響を。
……圧倒的な戦力差、そしてひき殺されてしまう味方国の民。その命を救うことにつながる。一方で、敵の鍵となるその装置を壊すことはすなわち戦争の長期化を生むことになるかもしれない。
だが、この構造を見るに、この装置の射程はかなり長い。
戦場だけではなく、一般市民の住む町にもその魔の手は届きうる。
それを防げる立場にあったのに動かない、というのは俺のポリシーに反するな。
結論を出して答える。
「わかりました。お引き受けします」
「そう言ってくれると思った」
「ただ……」
交渉はこれからだ。
自分のポリシーの結果の行動とはいえ、無報酬で引き受けるにはどう考えても俺のリスクが大きすぎる。
「俺が無事任務を遂行した暁には、可能な限り自国の兵を失わないような、そういう戦にすると約束してください」
俺の願いに、元首は微笑む。
「君の望む通りに」
……約束は取り付けた。長期化を防ぐためのこの約束。
吉と出るか凶と出るか。
ともかく俺は、任務を果たすのみか。
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