第22話 最強の料理人、との探索
「ニャるほどニャるほど、サウ王国のダンジョンはこういう構造になっているんだミャ……これは壁を形成してる成分が違うからなのかミャあ?」
現在地、サウ王国ダンジョン中層。
あれから、最高の料理とふかふかの寝床、素敵なルームメイトたちとハッピーな日々を過ごしていた。満足この上ない。
今日はというと未知の食糧調達もかねて、アスキーとともに探索に来ている。
これは例のアスキーとの交換条件だ。自然生成されたダンジョンが好きな彼女なら、サウ王国のそれも見てみたいんじゃないかと思ってドンピシャだったやつ。
彼女は、細かくマッピングやメモをしながらダンジョン内を探索しながら進んでいく。まあ、戦闘力や隠密能力から考えれば場所さえ教えればアスキー一人で探索可能なんだ。
それなのになぜ、俺がいるかというと……。
「ルード、そこのコケを取ってほしいミャ。いや違う、そっちだミャ。あ、あとそこの大きな石も持っていってほしいミャ。それで焼くと美味しく焼けそうだミャ」
つまるところ荷物持ちだ。
アスキーの指示にあっちへこっちへ走りながら、いろんなものをかき集めて持ちながら移動する係。俺の体、体力も最強レベルで良かったぁ。なんとかアスキーの期待に応え続けることが出来ている。
でもさ、こうなんでもかんでも持っていくってなると、結構無理な体勢で抱えなきゃいけなくて大変よ。
そろそろほんとにいろいろ取りこぼしそうになってきたので俺は声をかける。
「なあ、アスキー。そろそろ帰らないか?」
「まだ、はじめてからそんなに時間たってないミャ。ルード君は美味しいもの食べたくないのかミャ?」
この会話も何度目だろうか。
俺の体感ではもう開始してから数時間は経っている。
それなりに上に向けても移動したと思うのでそろそろ上層へ近づいてくるのではなかろうか。
そんなことをぼんやりと考えていたその時、俺の耳が音をキャッチする。人の音? 冒険者か。
アスキーを見ると、彼女の耳もピンとたてて何かを感じ取っている様子だ。
ゆっくりと音を立てずに彼女が俺の方に近づいてきて体に触れる。
体全体が水の中に入ったかのような重さに包まれて、音の震えが鈍くなる。少し聞こえづらい。アスキーが俺も対象に入れて隠密魔法を使ったようだ。上級隠密魔法であるこれの中であれば、たいていの冒険者から感知もされないだろう。
歩いて来る足音は3つ。
それなりに手練れの冒険者のようだった。盾持ち一人、魔法職一人、弓職一人。先日助けた初心者冒険PTを思い出す構成だが、彼らの立ち居振る舞いには隙がない。ここで過ごしてきた年月が感じられる。
「にしても、また戦争が始まるらしいぜー。今回はサウ王国もかなり本気らしくて、高額の報酬で冒険者にまで招集をかけるらしい。選民思想はどこへやらって感じだけど、ちょっと嬉しいぜ」
「おー、いいな。今まで俺らは血筋がどうのこうので戦わせてももらえなかったのに、金もらって戦争に行けるってわけだ」
盾持ちの男の言葉に、弓職の男が反応する。
この二人は戦争にポジティブな意見を持っているようだ。国の雇われ傭兵として働けなかったサウ王国ではこちらより冒険者の暮らしが厳しいと聞くがそのせいか。
「戦果……挙げたとしても貴族じゃないから手柄、減らされる。そんなの、行くだけ無駄」
二人の言葉に水を差すように魔法職の男がぼそりと言う。
「まあ、確かにそれはあるかもな」
「だな。でも逆に、冒険者でも貴族位をもらえるチャンスかもしれねぇぞ」
同意しつつも、ポジティブ思考を崩さない二人。
「それを期待してギルドではさらに報酬を上乗せして募集をかけているらしい。貴族位の冒険者が出ればギルドも今より大きく商売できるって腹だろうな……」
男たちが遠ざかっていったので会話はそこまでしか聞こえなかった。
ふっと体の力を抜いてアスキーが静かに魔法を解除する。そして興奮気味につぶやく。
「すごいことを聞いてしまったのミャ」
基本的にはマッピングが専門の彼女だが、その隠密性能の高さから彼女は他国にスパイとして入り込むこともある。機密情報を扱う頻度が高い彼女だが、趣味の一環で来たこんなところで、値千金の他国の大規模な戦争準備の情報を得るとは思っていなかったのだろう。
まあ、こんなところもなにも、ここは他国のダンジョン。敵地真っただ中なわけだが。
「ルード君、ウエス国に帰るミャ。一刻も早くこの情報を伝えるニャ。知らないまま戦ったらいくらウエス国でも国が傾きかねないニャ。それに、こんな情報いくらで売れるか想像も出来ないのニャ!」
なんだか嫌な風が吹き始めた。
そんなことを考えながら、戦争嫌いな俺は急ぎ家に戻るアスキーの後を追うのだった。
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