第19話 最強の俺、協力要請をする

「な、頼むよ、お前にしか頼めないんだよぅ」


二日ぶりの再会。

俺は全力でふさふさの耳としっぽを持つ彼女に頭を下げて頼み込んでいた。

そう、マッピングの神様アスキーは、知る人ぞ知る野外調理の天才なのだった。


「最強ゆえにダンジョン下層をも日帰りしちゃうルード君が、一昨日から街のどこの宿屋にも泊まっていニャい、という情報は掴んでたミャ。でも、帰ってきたと思ったらこんな突拍子もないこと頼まれるなんてさすがに予想外ニャあ」


びっくりしているのか、それとも面白がっているのかちょっと表情の読みにくい顔をしながらアスキーは言ってくる。

これはOKなのか、それともNGなのか?


「で、答えはどっちなんだよ」


俺の催促に、アスキーは冒険者に地図を売るときの商売人の顔になる。


「ミャー、条件次第ってとこかニャ?」


そう言って俺の言葉を待つアスキー。

条件……、ごくり。

コイツが喜びそうなものって、なんだろうか。

俺は必死に思考をめぐらす。


「わ、わかった。中層危険エリアの探索に付き合う」


「そのくらい、ボクのスキルだけでも朝飯前なのニャ。中層で言ったことないエリアなんてニャいのニャ」


ふんっと鼻をならしてNOを突き付けてくるアスキー。

なんだ、何を差し出せば満足してくれる?


「じゃあ、下層エリアの地図……」


「ニャー、それはこの前も言ったけど需要ないニャ。そんなとこ行く冒険者なんてほんの一握り儲けにならないミャ」


はっきりと断られる。

どうする? どうすればこの料理人の首を縦に振らせられる?

マッピング専門冒険者アスキー。

その行動の原点は、自然生成されたダンジョンの形状をこよなく愛すること。

そして彼女は俺と同じく戦争反対派。

そこから導き出される結論は……。


俺は、アスキーに耳を近づけさせるようジェスチャーする。

絶対に他人に聞かれてはいけない情報だ。

でも、俺はアスキーを信頼していたし、それよりもなによりも、自分の家でうまい飯が食いたいし、レビアにも美味しいものを食べさせたい。


俺の耳打ちした言葉に、アスキーは一瞬驚き、それからにやりと笑った。


「サウ王国のダンジョン? それが本当ニャら、君の条件を飲むミャ。一度見てみたかったんだニャア。こんな機会に生きてるうちに恵まれるなんて思いもしなかったミャ」


アスキーの目が爛々と輝く。

よし、これで料理人ゲット。

あとは、ルームメイトとの相性が悪くないことを祈るばかりだ。

猫人族とサウ王国の人間の間にはそれなりに問題があるからな……。

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