第16話 最強の俺、眠れない

「ついたー! さてー、寝るか」


流石にいろいろあった一日ともあって、レビアの家に着くころには俺も心労でくたくただった。

部屋の中の確認も後回しに、とりあえずあの石のベッドに横になる。寝る場所、これくらいしかなさそうだし。


「固い」


うん、石だもんな。当たり前か。


同じダンジョン内での就寝とはいえ、昨日あのふわふわベッドを味わってからのこれだと寝づらいったらありゃしない。

ベッドだけでも運んでくるんだったなぁ、なんて思いながら寝返りを何度もうつ。


そうしているうちに、俺の目は、鼻は、いろんなものを感じるようになっていく。


ちょっと待て、この甘い匂いはなんだ。

あれか、これか、ベッドの石の上に被せてあるこの薄い布からするのか?

てか落ち着いて考えてみれば、俺今ダンジョン内とはいえ女の子の部屋に宿泊してるんだよな。


「どうしよう、落ち着かなくなってきた」


俺はむくりと起き上がり、ランタンをつける。

あかりで照らしてみると、レビアが石で作った様々な家具が目に入る。

洗面台にお風呂、テーブル、椅子、身だしなみを整えるための台……丁寧に作られたそれらを見ているうちに、レビアのここでの暮らしの努力が伝わってくるが、残念ながら俺のそわそわは興奮へと昇華していってしまう。

だって20代童貞が主不在の女子の部屋に入ったら、ドキドキしないなんてあるか? 無理だろ、抑えられないだろこの衝動をさ。

せわしなく部屋を一周、二周、くまなく探索し終わった俺は、一つの聖域の前に立つ。

それは、石で作られた5段のチェスト。

……レビアは俺の拠点に来るときほぼ手ぶらだった。

そして出会ったときお風呂に入っていたことやその風貌から、見た目にはかなりこだわりがあると見た。

つまり。


「このチェストの中身は……」


ごくり。生唾を飲み込む。

なあ俺、ここまで歩かされて頑張ったわけだし、ちょっと、ちょっとだけなら、覗いても許されるよね? 

そーっと手を伸ばす。

一番上の段を引っ張ろうと右手をかけたその瞬間。


「いってえ!!!!」


触れた手に激痛が走り、タンスから全力の拒絶を受ける。

これは攻撃! しかも魔法による!

どうやらレビアは、服の入ったチェストに封印魔法をかけていたらしい。用心に越したことはないってかちくしょう。


なんだかとても悲しい気分になった俺はカバンを持ち、レビアの拠点から外へ出る。

あんなところにいるから精神をかき乱されるんだ。


部屋の外では夜明け藻が輝き始め、ダンジョン外で朝になったことを告げていた。

これのおかげで俺たち冒険者はこの暗闇の世界でも昼夜の感覚を失わずにいられる。


「はぁ、なんで俺がこんな目に……」


夜明け藻の光が目に入らないように俺は自前の寝袋を取り出してカタツムリのように頭まですっぽり全身包まると、つかの間の仮眠を開始するのだった。

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