生活改善

第15話 最強の俺、なぜか深夜のジョギングをする

「じゃ、私は今日は帰るから」


さらっと身をひるがえし、帰り支度を始めるレビア。


「え?」


あれ、え、ちょっと待ってなんか、さっきの幸せ感はいったいどこへ


突然の話の転換に、俺はどぎまぎしてしまう。

さっきここに住むって言ってなかったか? なのに帰る、どゆことほわい?


「だって、まだ必要な家具がそろっていないんだもの。クミちゃんにお願いした家具が出来上がったらこっちに越してくるわ」


「いや、ベッドはもう出来てるんだから寝るだけだったら十分なんじゃ」


「乙女にはいろいろあるの! あのねー、私にベッドだけの殺風景な部屋で寝ろって言うの?」


「寝るのにベッド以外の何が必要なんだ……」


「男のあんたにはわからないでしょうけどね、いろいろあるのよ。……それともなに、あんたそんなに引き留めて私にいかがわしいことしようって目論見なわけ?」


体を引き寄せるようにぎゅっと手で覆いながらレビアが俺のこと睨んでくる。


「そ、そんなわけあるはずないだろ」


ごめんなさい、ちょっと考えちゃってましたと心の中で思いつつも、必死で弁明する。


「いやさ、ここからレビアの住んでたところまでやっぱそれなりに距離あるし、帰るの大変かなーなんて」


俺の言葉にレビアが反応する。どうやら、ここに来るまでのちょっぴり遠い道のりを思い出したようで少し考えている様子だった。


「わかった、そう言うなら私がここで寝るからあんたが私の前の家で寝なさい?」


「いや、なんでだよ!!」


猛烈な勢いで突っ込んだが、帰ってきたのは冷ややかな視線のみだった。

いやいやこの発言がボケじゃなくて何なんだよ。


「大体、必要なものがあるから家に帰りたいって話だったよな? お前が帰らないと意味ないんじゃね?」


おいおいと大げさにボディランゲージしながら言うと、レビアはやっぱりプライバシーのない男ね、とクミに話しかけていた。

なぜ、そうなる。


「あなたと今ここに二人で寝た場合失われるのものは何? プライバシーよ。乙女に鍵も何もないところで男と一緒に寝ろって言うの」


「そうですよルード様。女性に向かってあんまりではないですか。ここはひとつ、男を見せて快適なこの家をレビア様に譲ってあげるべきではないですか?」


「うぐぐ……」


完全なる二対一だった。

まさかマイホームが建築二日目に、(未来の)同居人に家を乗っ取られることになるとは。


武力はともかく、言葉での力の差は歴然。

すごすごとカバンを背負い、レビアの家に向けて歩き出す。

俺の敏感な耳はすでに俺は出発したものとして後ろで始まった、楽しそーなクミとレビアのガールズトークを拾ってしまう。


「じゃ、じゃあ、俺出発するからな」


せめてもの抵抗として、そう声をかける。

返ってきたのはこれから何キロもの道のりを歩く俺に対して優しさのかけらもない返事だった。


「明日の朝来る時間も気を付けてね、乙女の準備には時間がかかるの。昼ちょっと前くらいがちょうどいいと思うから遅れすぎないでよ。朝食は抜けるけど昼食なしはつらいんだから」


……今日のレビアの様子を見るに、明日の昼食は俺が作ることになるだろう。

なかなかに人使いの荒いルームメイトもいたもんだ。

まあ、まだルームシェアしてすらいないけど!


今後のことを憂いて小さくため息をつきながら、俺は夜のジョギングもといレビアの家への移動を開始するのだった。

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