第9話 最強の俺、自己紹介をする
「んで、あなたはダンジョンを掘り進んできた結果、私のバスルームの壁を貫通してきたと、そういうわけね」
強めに魔法を食らって数分ほど意識を失っている間にしっかりと神官服を着こんでしまった(ちょっと残念)美少女に、俺はこれまでの経緯を一から十まで説明させられた。正座で。
最強冒険者の俺をこんな扱いしてくる人間なんてなかなかいないので、ちょっと別の何かに目覚めそうになっているのは内緒のハナシだ。
名前を伝え、宿屋を追い出されたこと、植物系モンスターのクミのこと、おうち拡張計画のこと、すべて話し終わったころには俺の風呂覗き罪は、情状酌量の余地ありということでおとがめなしとなった。
「まあ、話を聞いている限り完全な事故なわけだし、あなたを責めるのはお門違いよね」
「そうだよ、まさかこんな下層ダンジョンに入浴中の女がいると思わないだろ、普通」
俺の言葉に、目の前の彼女は顔をしかめる。
「女ってひどい言い方ね。私はレビアよ」
「悪かった、レビア。それで……」
「レビアさん」
「さんづけしなきゃダメか?」
「いい? 私は高位神官よ。敬意をもって接してもらわないと困るわ」
つつましいサイズの胸を張るレビア。
高位神官ですか、それはそれは。
けどねぇ……
「そんな高位神官様がどうして、こんな下層ダンジョンで入浴を?」
そうなのだ。そうというか、いやどう考えてもおかしいのだ。
高位神官は冒険者以上に各国にとって重要な人材。待遇は良く、各国の神殿で豪勢な暮らしをしていると聞く。
見たところ、装備自体は高価で綺麗そうだし、追放されたなんてこともなさそうだ。そうなると、全くもってここにいる意味がわからなかった。
「それは乙女の事情ってやつよ」
ふんっ、と答える気がなさそうに顔をそらすレビア。ちょっとかわいいのがなんかむかつく。
「あ、そういえばあんた。ルードって聞かない名前ね。最近、サウ王国に来たの?」
彼女がこともなげにいったその言葉。
そのたった一言で、先ほどまで美少女と二人きりでだらけ切っていた俺のスイッチが一気に切りかわる。
大剣に手を添え、間合いを取る。
相手を警戒対象へと引き上げる。
魔法使い相手に距離を取るのは愚策とも思えるが、俺には遠距離で放てる風月刃がある。
「ちょっとあんたどうしたのよ? いきなりそんな距離を取って」
俺の行動にレビアは驚いたようだったが、俺の言葉を聞けば彼女の態度も変わるだろう。
こういう戦いじゃ先制攻撃を仕掛けたほうが有利だが、許されたとはいえバスタイムを邪魔して素敵なものを見せてもらった罪もあるからな。
俺は慎重に間合いを図りながら、レビアにそれを伝える。
「レビア、俺はお前の国と敵対しているウエス国の人間だ」
レビアの表情に緊張が走るが、一瞬でそれはほどけていった。
彼女は小さく息を吐いて、言った。
「ダンジョンじゃそんなこと、どうでもいいんじゃない?」
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