第10話 最強の彼女、の考え方
「え?」
国に呼び出され、戦争の最前線でも戦ったことのある俺からすると、なんとも気の抜けた回答だった。
敵国の人間なのに、俺が憎くないのか?
俺のそんな不思議そうな表情を読み取ったのか、レビアは肩をすくめる。
「私は神官。癒し手よ。もちろん、自国の兵士が死ぬのはつらい。でも、敵国の兵の命が自国のものより軽いとも思わない。だから幾度も、戦争をやめるよう国にかけあってきた。でも駄目ね、お偉いさんはみんな頭が固くて。そんなことを言い続けてたら疎まれちゃって、いつの間にかこんなところへ、ね」
そう言ってぺろりと舌を出す。
俺はその言葉を聞いて、思わず心から感動してしまった。
なんて……なんて、まっとうな理由でここに住んでるんだ!(俺と違って)
自分のここまでのドタバタ話が心底恥ずかしくなる。
「レビア。お前、すごいな」
思わず口から出てきた言葉。
レビアは「なによ」、と小さく言いながら俺の肩を押してくる。照れくさそうだ。
「ま、そんなわけで私はここに住んでいるの。まあ、敵国同士だけど、ダンジョンの中でだけは隣人として楽しく暮らしましょ。ま、こんな何もないとこだけどね」
見ると、家具のほとんどが岩を切り出して作ったもので、お世辞にも快適そうだとは言えない。
ベッドなんかごつごつして寝づらそうだ。
サウ王国のダンジョンには、植物系モンスターがいなかったのか、はたまた植物系モンスターに家具を作らせようなんて狂った発想はなかったか。
「あのさ、俺の家に植物系モンスターがいてさ。そいつ、いろんな家具作ってくれるんだよね」
「嘘!? 家具を作れるモンスター! 何それ、会いたいわ。私家具ってとても好きなのよね。木製の家具が恋しいわ」
そう言って今日一番楽しそうに笑うレビア。
敵国の人間とは言え、俺を害するつもりはないようだし、隣人とは友好関係を築きたい。
話せる人間がいるってのも悪くないだろうし。
「いいぜ、クミは結構気のいい奴なんだ。きっとレビアも仲良くなれると思う」
そう言って俺は意気揚々と先導して歩き出す。
けれど、レビアがそんな俺の肩をがしっと掴む。
「ねえ、ちょっと思ったんだけど、サウ王国とウエス国のダンジョンって距離に数十キロ以上離れてるわよね」
「あー、だな」
俺は戦場に行った際に叩き込んだ、国境周辺の地図情報を思い出しながら言う。
「……あんた、何キロ掘ってきたの? ていうか、私あなたの家に行くのにそれだけ歩かないといけないってこと?」
「そうみたい……てへ!」
「ぜんっぜんかわいくないぃ!」
本当に道を掘るときは夢中になっていて全く気付かなかった。
フルマラソン数本分の距離の徒歩レースがここに、開幕する――
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