第8話 最強の俺、魔法を受ける

「い、いってぇ」


それは、久方ぶりに感じる激痛だった。

何しろ、防御力も最高クラスの俺にダメージを与える敵など、ダンジョン下層でもほとんどいない。それも激痛となると、ダンジョンボスクラスだ。

それを、この、柔肌の可愛らしい彼女が?

俺は痛みと情報で混乱する頭を押さえながら、たった一言弁明する。


「じ、事故だ……」


その言葉に彼女ははっとした顔をする。

そして唱える。


「ヒール!」


瞬間、体から痛みがすーっと引いていく。


「大丈夫です? い、生きてます?」


遠慮がちに顔を覗き込みながら聞いてくる彼女の問いに、すっくと立ちあがって答える。


「ああ、なんともない」


「う? えーーーーー?」


すぐに立ち上がった俺に対して、彼女は口をまん丸くあけて驚いていた。

自分で回復魔法をかけておいて、不思議な驚きようだ。


「俺、なんかおかしい?」


もしや、気付いていないだけで自分の体のどこかがえぐれてるんじゃないかと俺は体を触りつつ確認する。

どこも問題なし、だ。むしろ、ここまで掘ってきたときに若干感じていた疲労まで消えて快調そのものだ。

軽く腕をふりふり体操してみても問題なし。

一方、彼女は、俺のそんな様子を見てぶつぶつとなにやらつぶやいていた。


「たいていの人間は私の全力の魔法を食らった後に回復魔法をかけても数日は動けないのにどうして? ていうか、下層ダンジョンに潜れる実力のある冒険者なのに私が知らないなんてそんなのありえるかしら。そもそも、回復魔法をかけたときの疲労度から考えて最初の攻撃でそんなにダメージを与えられてなかったということよね。あーもう、わかんないっ!!!!」


最後の方は叫んでいた。

うんうん、混乱するよな。正直俺もいろんな意味で混乱していた。俺自身も、最強の冒険者として名が売れている以上、やり手の冒険者の顔くらい知っている。

でも、知らない。

俺は、この女のことを全くもって知らないのだ。


「あんた、名前を名乗りなさい! 不審者だったら、街の衛兵に引き渡してやるんだから」


びしっと俺を指さしてくる彼女。

そうだな、お互い、自己紹介から始めるとしよう。

でもな、最初に一つだけ。


「まずは、服を着て欲しい」


俺がそう言うと、彼女は耳から順に真っ赤になった挙句、先ほどよりもさらに強めの魔法をお見舞いして来て、俺はもう一度回復魔法のお世話になる羽目になったのだった。



ちなみに、男としてこれだけは言っておく。

正直、眼福だった。

魔法を喰らったことに、悔いなし。

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